第14話 『そのワンピ、何ジャージ?』

 


 俺はあの後も顔を真っ赤にしながら、ニヤニヤする愛姫の前でなんとか食事を食べきった。

 そんなこんなで次は愛姫の雑貨を買いに行くはずだったのだが、



『さ、次はあんたの服ね』


『え?』


『なによ』


『いや、愛姫の雑貨とか買うんじゃないの?』


『……あー、予定変更よ。あんたの服があまりにも残念過ぎてもう耐えられないわ』


『失礼な!』


 という具合で、モールに俺の服を買いに来た。

 時刻は14:00頃、そこまで時間があるわけではないが、まぁ大丈夫だろう。


「……見られてんな、俺たち」


「そうね。いつものことだけど、あまりいい気分じゃないわね」


 それにしても、やはり俺たちは目立ってしまうみたいだ。

 まぁ、愛姫の可愛さの前には全人類がひれ伏さなければおかしいもんな。

 それに、たしかにこんな衆目の中、白ジャージは勇者かもしれん。


 そして、俺は愛姫の着せ替え人形のように、着せられては評価されて脱がされるを延々と繰り返した。

 主に、『……悪くはないけど、もっといいのがあるはずよ』とか言ってたけど、俺としては悪くないならそれでいいと言いたいところだ。

 言うことを聞く、と言ってしまった以上何も言えないのだが。


 そんなこんなで何店舗か周って、恐らく5、6店目になるのだろうか。



「じゃ、次はこれ、試着しなさい」


 そう言って愛姫は黒のスキニージーンズに、赤のオーバーサイズパーカーを渡してくる。


「もう疲れたよ……」


「誰のためだと思ってるのよ」


「…………愛姫?」


「下着泥棒になりたいの?」


「こんなわたくしめのためにッ!ほんっとうにありがとうございますゥ!」


 急いでそう言ってから、俺は試着室に入る。


 まぁ、愛姫に服を選んで貰えるのは嬉しいし、ああ言った以上仕方ないから愛姫が満足する洋服に巡り会えるまでは我慢だ。

 そもそも、お洒落をしたくないわけじゃない。

 今までは洋服なんて買って貰うようなわがままを母さんには言えなかっただけだ。


 だけど多分、この写真で脅されるのは今日だけじゃないんだろうなぁ……



「おーい、着替えたぞ」


「ん」


 試着室の前でスマホをいじる愛姫に声をかける。

 なんかの写真を見てるみたいだけど、なんの写真だろう?


「……へぇ、あんた、赤似合うじゃない」


「そ、そう?ふふ」



 似合う、と言われて頬が緩んでしまった。

 なるほど、俺は赤が似合うのか。こんな派手な色は着たことがない。

 俺の持っている服と言えば、このジャージとその黒バージョン、ジーンズが一枚にその他無地のシャツや下着ぐらいだ。



「とりあえず、それは購入決定ね」


「あー、疲れたぁ」


 やっと終わった……。今何時だ?もう16時過ぎてるんじゃないのか?

 二時間も周って一着って……服買うのってこんなもんなの?


「ハイ、次はこれ」


「…………え?」


「なによ。こ、れ。着なさいってば」


 そう言ってぐいっと持っていた服を押し付けてくるので、とりあえず受け取る。


「え、この赤のやつ買うんじゃないの?」


「買うわよ?それが?」


「……まだ着るの?」


「当たり前じゃない。一着で足りるわけないでしょ?」



 確かに俺の服の数的には一着じゃ足りないだろう。

 恐らくそこらへんは母さんに聞いているのかもしれない。

 だが、さすがに疲れた……。慣れない買い物に2時間強もいれば仕方はないだろう。



「でも、お金は……?」



 ちなみにだが、ランチからこの買い物に至るまで、お金は全て愛姫が出している。


 おっと、待ってくれ。別に俺はヒモとかクズとかってわけじゃない。

 そもそも、俺がお金を持っていない以前に、愛姫が賢治さんからのお小遣いを俺に渡すようになった。

 なので、今俺の財布の紐は愛姫が握っていると言うわけだ。


 まぁ、使ってるのは愛姫のお金だろうからヒモと言われても仕方ないが、持っているお金のケタが違うんだ。



「まぁ……現金は20万くらいしかないけど」


「あぁ、20万しかないのね。じゃあ……」


 あぁ、20万か。そうか。確かに少ないな。

 20万ね…………ん?20万ってなんだ?あれ、俺の今までのお小遣いが月1000円だったから……


「20万!?!?!?!?!?」


「ちょ、ちょっと!声がデカイわよ!」


 店員さんが思わずこっちを見ていたので、すいません、と一言謝っておく。


「お、お、お前、20万って、一体それだけで何ヶ月まともなもんが食えるか分かってんのか!?」


「え?20万なんて服数着しか買えないじゃないのよ」


「ふ、服……数着……だと……!?」


 服なんて1000円あれば買えるんじゃないのか……!?

 この水ノ宮ホテルのお嬢様は一体どんな服を……


「……あの、愛姫さま〜?」


「なによ突然」


「つかぬ事をお聞きしますが、そちらのワンピースっておいくら位したんでしょうか?」


「……あんたねぇ、それはいくら何でも失礼よ」


「ですよね〜」


 怒られちゃった。

 ま、そりゃ洋服の値段とか、わざわざ言いたいもんじゃないよな……


「……たしか……3万ちょっとだったわ」


「え?」


 言っちゃうの?ていうか……3万?何のこと?

 まさかワンピース一着で3万とか言わないよね……?


「だからこのワンピースよ、3万だった気がするわ」


「3、さん、サン、サンマン……3万……ふっ、ふふふ、ふふふふふふ」


 3万で一着……つまり、上下セットで1000円のこのジャージが……


「なによ、突然笑い出して。キモいわよ」


「そのワンピ……三十ジャージ」


「ジャージで数えんな!」


「あふぅ!」


 愛姫が俺の足を踏みつけた。

 愛姫は靴を履いているが、試着室にいる俺は靴下だ。めちゃくちゃ痛い。

 まぁ、ヒビが入っているだろう足と逆だったのが救いだけど。


 この後さらに数着買ってから帰宅した。

 値段?聞きたい?


 ……全部で120ジャージくらいだったってさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る