第13話 『間接キスって時にキスより恥ずかしいよね』
とまぁ、そんなこんなで、話は食事中に戻るわけだ。
俺はただでさえこういう店が苦手なのに、お高い店に似つかわしくないジャージで無理やり愛姫に連れてこられた、というわけだ。
それにしてもこの扱いは酷くない?
食べ物をこういう扱いしたら、今の時代社会的に終わっちゃうよ?大丈夫かな?
だがまぁ、俺への罰として愛姫が指定したのがこの辱めだから、俺としては我慢するしかない。
「はぁ……反省できた?」
愛姫がナイフを置いて俺に聞いてくる。
「えっと、『小さい』って言ったことでしょうか……?」
「違うわよ!……まぁそれもあるけど、そっちよりも服装よ、服装」
愛姫が一瞬照れたようにして否定した。可愛い。
「服装……」
「あんたにとってはお気に入りなのかもしれないけど、たとえ荷物持ちだとしてもわたしと一緒に出かけるっていうのに、そんなの許さないわ」
「まぁ……そうだな、ごめん」
愛姫がこうやってちゃんとした服装をしているのに、俺だけジャージというのは確かに失礼極まりない。
例え愛姫が俺と出かけるのが嬉しくてこういう服装をしたのではないにしろ、俺は俺で出来るだけ頑張ってお洒落をするべきだった。
まぁ、荷物持ちってはっきり言われちゃったけどさ……
「分かったならいいわ」
愛姫はそういうと、すいません、と言って店員を呼んだ。
「こいつに食器持ってきてあげて」
「……畏まりました」
ねぇ、店員さん。なんでそんな嫌そうな顔するの?酷くない?そんなに醜いかな、俺。
ていうか食器?
「お皿持ってきてもらうから、移して食べなさいね」
「……え!?俺このハヤシライス食べるの!?」
こ、こんな紙の上に出されたぐっちゃぐちゃになったハヤシライスを……
「大丈夫でしょ?だってあんた、小さい頃バッタとか食べてたじゃない」
「食ってねぇよ!そこまで貧乏じゃないからな!?てか知ってるだろそんなの!」
「言い訳は置いといて」
「いや置くな!食ってないぞ!」
バッタを食ってたなんてレッテル貼られるのは嫌なんだけど!
てか母さんに失礼だよそれ……
「とにかく!別に汚いわけじゃないんだから、食べなさいよ」
「まぁ……いいけどさ」
少しして店員が食器を持ってきて移してくれた。
去り際に舌打ちされたのはもう気にしないことにした。
やっとスプーンが……!これで食事できる……!
「美味いな……あの酷い扱いさえなけりゃ完璧なのに……」
「…………」
「ん?愛姫、どうした?」
愛姫がじーっと自分のステーキを見つめながら黙り込んでいる。
「……あんたさ」
一瞬ニヤっと笑ったあと、愛姫が口を開いた。
「ん?」
「これ、一口食べてもいいわよ」
愛姫がニヤニヤしながらステーキを指さして言う。
「え?いいの?」
お、ラッキー。
ステーキもハンバーグも、どちらも美味そうで食べたいって思っていた。
「いいわ」
「じゃ、いただき―――」
俺が愛姫のステーキを取ろうと手を伸ばすが、
「待て!」
「わん!」
愛姫が大きめの声で静止をかけてきたので思わず従う。
…………え?なんで咄嗟にわん!って言ったの俺……
愛姫に躾けられてる犬みたいじゃん……
それ最高じゃない?
「ぷっ」
「お前ぇ……!くれるんじゃないんか!」
「あげるわよ。でも、その……」
愛姫が顔を紅潮させ、恥ずかしそうにもじもじしている。
一体なんだ?愛姫はどうしたんだ?
恥ずかしそうにもじもじ……あ!そうか!
「トイレか!」
「違うわよ!もういいわ!ほら!」
そう言って愛姫はどすっ、と
「……え?」
……これ間接キス+あーんだよな……?
……俺もうダメかもしれんぞ?
昨日は突然の状態でキスされたから、理解するまでに時間がかかってなんとか照れるのを耐えられたが……
「どうしたの?」
愛姫がニヤニヤしながら言う。
「……え、でも、こ、これ……」
「ほら、食べなさいよ」
愛姫がぐいっとステーキを押し付けてくる。
その顔は悪戯好きな子供のような笑みを浮かべている。
こいつ、分かってやってやがる……!
周りから『ひゅーひゅー』とか『盛んねぇ』とか『チッ、爆発しろ』とか聞こえるんだが……
てか最後のやつ愛姫の知り合いの店員じゃね?
「…………」
周りの視線が気になったのでぱくりと一口。
おいしい……のか?味がわかんないんだけど……
さ、さすがにこう……恥ずかしいというか……
ていうか、なんでこんなに恥ずかしいんだ?
いつもの俺なら『うっひょおおおお!愛姫さまと間接キス最高!』とか言いそうなのに……
いざとなると……くっ、恥ずかしすぎてハイテンションで恥ずかしさを紛らわすことが出来ない……!
「……あ、あまみがあって、おいしい」
ちくしょう!愛姫のやつ、ニヤニヤしやがって!
愛姫は恥ずかしくないのか!なんとも思わんのか!
「……間接キス、しちゃったわね」
愛姫が恥ずかしそうに、小さな声で呟く。
「―――ッ!げほっ、ごほ、ごほっ!」
お、お前ぇ……!それは卑怯だろうが……!
「ぷっ!あは、あはは」
顔を真っ赤にして悶える俺に対し、面白おかしく笑うのをなんとか堪えていた愛姫だった。
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