第12話 『小さい?それは禁句ですよ』
バカにされてちょっと悔しいから少しだけ煽ってみよう。
「……愛姫さんや、ため息つくと幸せが逃げるって知ってるかい?」
「あ"ぁ?」
「ひっ」
愛姫が俺を睨みつけながら、ドスの効いた声で脅迫してきた。
「…………」
愛姫はそのまま、無言でじっと俺を睨み続けている。
あ、あれ?なんかマジで怒らせた……?
もしかしてこれヤバイ状況か?
くそ、どうにかして切り抜けないと……!
……そうだ!女は褒めるといいってよく聞くし、とにかく愛姫のことをどんどん褒めていこう!
「あ、愛姫の今日の服装すごい可愛いよ!なんか、まるでデートに行く前の女の子みたいに張り切ってるような感じ!あ!もしかして俺と買い物に行くのが楽しみだったの!?ありがとう!いやー嬉しいな!愛姫がそんなこと思ってくれてるなんて!」
「…………」
相変わらず愛姫が不機嫌そうに黙っている。
少しだけ頬を赤らめてるから嬉しいのかもしれないが、むしろ険しい表情になった気がする。
うーん、もうひと押ししておくか。
「それにしてもやっぱり、その服装似合ってるよ!なんというか……愛姫の
どうだ!ここまで褒めまくれば愛姫もデレデレになって許してくれるだろ……!
「…………ふふっ、ありがとう、春奈くん」
「……へ?」
愛姫が外用フェイスで可愛らしく笑ってそう言ったのだが、何か違和感を感じる。
許してくれたのか……?だけど……なんだ?なんかおかしいぞ……?
愛姫がこんな時に外ヅラで答えるなんて……!
まるで本気でキレてるみたいじゃないか!
「ねぇ、春奈くん」
愛姫がそう言ってスマホを取り出しながら、ソファに座る俺の前まで歩いてくる。
「な、なんでしょうか……?」
「わたしね、今日仲良くなった子とLIME交換したんだけど」
「はぁ……良かったね……?」
突然なんだ?今の話になんの関係が?
「この写真、送ってもいいかな?」
そう言って、うふふ、と笑いながら俺にスマホの画面を見せてくる。
その画面に映っていたのは―――
「俺が洗濯物を干してる写真……?」
「そうだよ!でもね、春奈くん。この写真、見方によってはね、
「―――へ?」
「これ、春奈くんがわたしの下着を干してる瞬間なんだけど、『突然家に来た春奈くんに下着盗られた〜!』って送ったらどうなるかな?」
「…………」
俺は口を金魚のようにパクパクさせて黙り込んでしまった。
この時点で俺は理解した。
愛姫を本気で怒らせてしまったことに。
「あ、愛姫さま……何がご不満で……?」
だが、愛姫がここまで本気で怒る理由が分からない。
「不満?何のことかな?」
「え?」
不満がない……?じゃあ何でこんなに怒ってるんだ?
「春奈くんがわたしと出かけるのにわざわざ
「あ……はい……分かりました……」
めちゃくちゃ不満に思ってるじゃん!!!怒ってるじゃん!!!
しかも最後のやつだけめちゃくちゃ声低くなったじゃん!!
そのニッコニコの笑顔、めっちゃ怖いからやめて!
「写真、どうしようかな〜?」
愛姫がわざとらしく呟く。
「あのぉ、送らないっていうことにはできませんかね……?」
恐る恐るといった感じに愛姫に尋ねる。
「えぇ!送らないで欲しいの!?」
「はい……」
「うーん……でも、送りたいからなー。
「く……っ!」
わざとらしい……!めちゃくちゃわざとらしい!
こいつ、俺が自分から愛姫にお願いするのを待ってやがる!
だが……!
ここでこの写真が出回ったら入学初日で残りの三年間、変態として過ごさなければならなくなる……!
それは、それだけは避けなければ……!
「お、お願いします、愛姫さま……」
「Ah……ワターシ、ニホン、オネガイ、ドゲ、ザ?ドゲザ、アル、キイタ」
「く……ッ!この……!」
こいつ……!見た目が外国人っていうだけで、生まれも育ちも生粋の日本人の癖に……!
それに土下座だと?
いくら愛姫でも、流石にそれはやりすぎじゃないか……?
土下座しないと高校三年間が入学初日に終わってしまう。
それは避けたい、絶対に。
だけど……それよりも今ここで愛姫に土下座する姿を見られる方が耐えられない。
そんなもん、いくら俺でもさすがにプライドというものはあるんだ!
「ええい!さすがに無理だ!」
「……」
「俺はまだそこまでプライドを捨ててない!」
「もうかなり終わってると思うんだけど……」
愛姫が元に戻ったようだ。
怒ってはいるようだが、先ほどよりは軽くなっており、せいぜい不機嫌といった所だろうか。
ぽそっと酷いこと言われた気がするけどまぁいい。
「……」
愛姫が俺のことを無言で見つめてくる。
「いいわ」
「……ふぅ」
愛姫の言葉に、安堵のため息をつく。
「もしあんたが今土下座しようものなら家から蹴り出してたところよ」
「ひぃ!暴君だ!」
「あ"?」
「あ、さーせんっした」
愛姫の場合、本当にやりかねないから恐ろしい……!
昔から怒らせると俺にだけは容赦がないからな。
良くやった……!良くやったぞ、俺!
「だけど、わたしのことを『小さい』だとか言ってくれた分の辱めは受けてもらうから」
「うぐっ」
くそ……!
ただ褒めようとしただけなのに……
まさかそれが愛姫のコンプレックスになっているとは、思いもしなかった。
「そうね……とりあえずは、今日出かけてる間は言うことを聞いてもらうわよ」
「……分かった」
「じゃあ、行くわよ」
「ん?俺は着替えなくていいのか?」
ドアの方へと歩き出した愛姫の背中に尋ねる。
「もちろん。
着替えないで、って、さっきはなんか嫌がってたのにどういう風の吹きまわしだ?
「うん?まぁ、それでいいならいいけどさ」
そう言ってソファから立ち上がり、俺はジャージのまま愛姫と一緒に買い物へと向かった。
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