第16話 『人見知り?コミュ障?』
俺のムスコが悲鳴を上げた日から大体2週間が経ち、高校生活が本格的にスタートした頃の昼休み。
俺はクラスメイトと話はするものの、友達と言っていいほどよく話をするような存在はまだいない。
ていうか無理して仲良くしようとは思わない。モブでいいのだ。愛姫さえいればいい。
そんな俺に対して、一方の愛姫はというと、近くの席になった女子たちと今日も今日とて仲良く話している。
顔は可愛いし、面倒見もいいし、社交性もあるから当然なんだが、やはりあの猫を被った姿には違和感を覚える。
「園部ー、一緒に弁当食おうぜー」
と、一人寂しく愛姫を眺めながら弁当を食べていた俺に、トイレから戻ってきて声をかける俊太。
席は俺のすぐ後ろなので、自然と一緒に食べることにはなるのだが、俊太はまだ体験入部も始まっていないこの時期から既に部活に参加している。
とんでもない野球バカなのだから仕方がないが。
そのため、入学してから俊太と弁当を食べたのはまだ数回だけなのだ。
「俊太、今日は昼練はないんだっけ?」
「おう。だからぼっち飯をしてる可哀想な園部と一緒に食べてあげるってわけだ」
ぼっち飯だと……?いや、違うぞ。
これは決して友達がいないからぼっち飯をしているというわけではないのだ。
そもそも、基本的にご飯というのは静かに一人で食べるものだろう?
だから俺は決して悲しくも寂しくも悔しくもない。
本当は愛姫と一緒に食べたいのに、あの女子の集団に突っ込む勇気がなくて毎日眺めるだけで悔しいとか、そんなことは決してないのだ。決して……ぐすん。
「違うぞ、俊太。いいか、ご飯というものは静かに食べるものだ。だったら何人で食おうが一緒だろ」
「あー分かった分かった。水ノ宮以外の有象無象と飯を食べても仕方がないって言いたいんだろ?」
席に着いた俊太が弁当を開けながら言う。
「よく分かってるじゃん」
まさにその通り。
幸せの分だけ美味しくなるからな。
え?キモい?うるせぇ。
「お前……」
「おい、なんでそんな憐れむような目で見るんだよ」
なんだかイラっとする目だ。
「まぁいいけどよ。本当に水ノ宮のこと好きなんだな」
「そんなの当たり前だろ。あ、くれぐれも本人の前では言うなよ」
俊太に向かって一応念を入れて釘を刺しておく。
万が一俺の目の前で俺が愛姫のことが好きだなどということがバレてしまったら、一体どんな言い訳をすればいいのだろうか。
言い訳をしたとして、それはそれで見苦しいだろうし、逆に俺が愛姫のことを好きじゃないと思われるのも嫌なのだ。
愛姫は俺の気持ちに気付いているだろうが、何も言ってこないし、俺も何も言わない。
小学生の頃からそんな関係でうまくやってきたのだから、わざわざ壊す必要もないし、この関係は嫌いじゃない。
「言わないけどさ、いいのか?水ノ宮、もう既に人気あるし、取られちまうかもしんねぇぞ」
「はは、何をバカな。愛姫が取られるなんてこと…………愛姫が、取られる……?」
箸で挟んでいた卵焼きが、ぽろっと弁当の中へ帰還する。
「お、おい、どうした園部」
俊太から見れば、徐々に俺の顔が青くなり、身体が震えだしたように見えただろうが、その通りだ。
事実、愛姫の横に見知らぬ男がいるということを想像してしまった俺は、果てしない恐怖を抱いてしまったのだから。
「俊太」
「なんだ?」
「……行くぞ、あそこに」
俺は目線を愛姫の方へ向けながら俊太にそう宣言する。
要するに、愛姫と共に弁当を食べようということだ。
愛姫は現在、仲良くなった二人の女子と弁当を食べている。
牧野さんと三好さんだ。もちろん、愛姫の交友関係など調査は済んでいる。
決してストーカーじゃないぞ。愛姫のためにも、これは必要な調査なんだ。
「……マジ?」
「あぁ、マジだ。俺はいくぞ」
弁当を持って俺は立ち上がり、愛姫の方へと進み出す。
「……まぁ、見守っててやるよ……」
背後からそんな声が聞こえる。
慈愛に満ちた声だが、どこか呆れたような気持ちが込められているように聞こえるのは気のせいだろうか。
窓側の席に座る愛姫の集団の前までやってきて、歩みを止める。
すると、愛姫を含めた三人の視線がすっとこちらに移る。
さぁ、ここからが勝負だ。まずは『こんにちは!一緒に弁当食べてもいいかな?』ってイケボで宣言しよう。
「…………」
なぜだ……!声が出ないぞ!
なんか三好さんと牧野さんが怪しい人を見るような目でこっちを見てるし。
ていうか牧野さん、めっちゃ震えてない?怯えないでよ!
まずい!早く言わなければ……!
「きょっ!きょんにちひゃ!」
噛んだああぁぁぁ!人見知り発動すんなよおおぉぉぉ!
「ひぃっ!」
あぁほら……牧野さん涙目だよ……。
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