第17話 『辱』
と、ガクガクブルブルと怯えてしまった牧野さんと俺の間に、庇うようにして三好さんが立ちふさがる。
「……誰ですか?何をしに来たんですか?もし変なことをしようとしているのなら、許しません」
キッと音が聞こえるほど鋭く睨み、低い声で三好さんがそう言った。
……めっちゃ警戒されてるじゃん!なにこれ!?違うよ!変質者とかじゃないよ!
「…………」
ちょっと!なんで愛姫までそんな「うへぇ」って顔でドン引きするわけ!?
一応幼馴染だよね!?助けてよ!
しかもおれの席の方からは「ぶふぉ」って吹き出すような音が聞こえたし……。あの野郎、許さねぇ。
「なんとか言ったらどうなんです?」
「あ、あああああの……」
どうしよう!こういう時はなんていうのがいいんだ!?コミュ障すぎて分からん……!
しかも三好さん顔怖いよ!声もトゲトゲしてるし……。
せっかく可愛いのにもったいない!まぁ愛姫には敵わないけど。
やばい、頭が真っ白になってきた……
「まちがえましたぁ!」
場の雰囲気に耐えられなくなり、ここからの適切な打開策も頭に浮かんでこなかった俺は、大声でそう言い残して自席へと素早く帰還。
だが、そんな俺の様子はもちろんクラス全員が見ていたわけで、あちらこちらからくすくすと笑い声が耳に入る。
「あはははははははは!」
……この俊太とかいう坊主野郎、友人の失敗によくもそんな清々しく笑えやがるな……!絶対に許さん!
と、恥ずかしさのあまりいっそ死にたくなってきたので、俊太への怒りに思考を向けて現実逃避。もうやだ。
「お、おま、おまえ……ま、まちがえましたぁ!って……」
「てめぇ……んな笑うことないだろ……!」
涙目になりながらなんとか笑いを堪える俊太であるが、今回に関しては本当に恥辱の至りであるので控えてほしい。
俺が恥辱にまみれながらもなんとか小声で返事をすると、ようやく笑いを抑えた俊太が、
「すまんな。だけどおまえ、あとでどうにか説明した方がいいぞ。三好さんまだこっち睨んでっから」
「……まじで?」
睨まれていると言われて、まさか三好さんの方を向くわけにはいかず、思わず体が硬直してしまう。
なんで?三好さん、ちょっと最初の挨拶を噛んじゃっただけじゃん。そんなに警戒する必要なくない……?
「ど、どうすればいい……?」
と、コミュ障の俺がもう一度話しかけに言っても同じ轍を踏むだけだろうと判断したので、少し悔しいが素直に俊太に助けを求める。
「まぁ、勘違いされてるだけだから、ちゃんと話せば分かってくれるんだろうけど……」
「話さなきゃダメか……」
「直接がダメならLIMEで話してみるとかだろうけど、あの様子じゃLIMEなんかなおさら話してくれないだろうな」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「やっぱ直接話すしかないだろうな」
「……ていうか、俺は愛姫と話せればいいわけだから、あの2人と仲良くする必要はないんじゃね?」
よく考えてみたら俺の言った通りである。最悪あの2人に嫌われたとして、なんの問題もないのだ。
「三好さんと牧野さんと仲良くならなきゃ、学校で水ノ宮さんとは話せないだろ。水ノ宮さん、ずっとあの2人と一緒にいるし、仲良くなっておかないとそもそも近づけないぞ」
「そうか、そうだよな……はぁ……」
と、なんの問題もないと思ったが、やはり大問題だったようだ。
話せないどころか近づけない、最悪避けられることさえ考えられる。
愛姫個人に避けられることはないとは思うが、グループで避けられるというのも地獄だ。
「まぁそんな落ち込むなって。俺もなんか手伝ってやるからさ。あとで俺からも少し伝えておくから」
「あぁ、ありがとう。でも……はぁ」
コミュ障の俺にとって、自分から誰かと仲良くなりに行くというのはハードルの高さが限界まで上がっているようなものだ。
むしろさっき玉砕覚悟で話しかけにいった俺を褒め称えたい。
愛姫を取られるなんてことを言われて焦っていた部分はあるにせよ、中々勇気のある行動だったと思う。
そんなことを考えていた俺のこの日の苦い昼休みは、終始三好さんに睨まれながら過ぎ去っていった。
俺の幼馴染がカッコよすぎる! 横芝カイ @sarubadou_rudari
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