第8話 『違います。お粥が好きなんです』
「おーい、出来たぞー」
「はーい」
調理が終わって、料理をテーブルに並べながら声をかけると、徐に立ち上がった愛姫がテーブルへと歩き、着席する。
「へぇ、美味しそうじゃん」
「んー、食べた事ないから再現出来てるか分かんないけどさ」
愛姫の正面に座り、二人でいただきますと言ってから料理に手をつける。
「……どう?一応レシピ通りで、ちょっと足りないのを代用したりしたんだけど」
ナムトックを食べている愛姫に話しかける。
なんで愛姫は食事する一挙一動でさえもこんなに美しいのだろうか。そうか、天使だからか。
まぁ、料理については自分で言うのもなんだが、母さんが仕事で忙しいのもあって割と小さい頃から自炊していたので、少しばかりは自信がある。
ただ、やっぱり愛姫に自分の料理を食べて貰うのはいつでも緊張する。
昔も時々食べて貰っていたのだが、いつもドキドキしていたのは言うまでもない。
だがやはりそこは愛姫さま。いつも食べている物とは格が違うようで、『……まぁまぁね』としか言われたことがない。
だからいつか美味しいって言って貰えるように頑張っている。
まぁ簡単に言えば花嫁修業だな。俺が嫁で愛姫が婿、おーけー?
俺が働いて俺が稼いで俺が家事をして、そんな嫁に俺はなりたい!……末期?なんのこと?
「……まぁまぁね」
「そうか、そりゃ良かった」
まぁ、今は昔と同じ返事を返して貰ったことを喜ぶべきなんだろう。というか素直に嬉しい。
愛姫に料理を作って、感想を聞いて、『……まぁまぁね』って言われる。
ここまでが一つの流れみたいに思い出として残ってるから、どこか懐かしい感じがする。
「こっちは…………うぇ、まっずいわね」
愛姫がもはや原形をとどめていない白米を食べて酷評。
それと、ムスコの教育上よろしくないんで、『うぇ』って言いながらちろって舌出すのやめてもらえませんかね。
と、なんとか昂ぶる俺の欲求を抑え込んで、俺もナムトックを頂く。
「……うん、美味いじゃん」
なんだか懐かしい光景に安心して笑みが溢れた。
だが―――
「……また作りなさいよ」
「―――ッ!」
「ちょっ!何してんのよ!」
ガシャァン!!!べちょっ。
そんな音がした。俺が米―――もとい、お粥の入ったお茶碗に頭突きをかました音。
愛姫の放った言葉とその少し照れた神々しいご尊顔に一発K.O.される。
ふおおおぉぁぁぁぁぁ!!!
なにその顔!可愛くて可憐で美しくて綺麗で艶やかで優雅で眩しくて天使で女神過ぎんだろぉ!
不意打ちにもほどがあんだろ!殺す気かよ!
マジで心臓に負担かかりすぎだから!天使すぎて早死にしちゃうよ!
と、お粥に顔面を突っ込みながら悶えていたが、少し落ち着いてきた。
……てかあっつ、お粥あっつ。
とりあえず顔を上げて、返事を―――
「ろ、ろぉいらひまひへぇ」
「は?気持ちわる……」
ぬっっはあああぁぁぁぁぁ!!!
ニヤけ過ぎて呂律回んねぇじゃねぇかよぉ!
べっちょべちょだしニヤけてるし、俺今とんでもない顔してんだろうなぁ!
白濁液まみれの男なんて見たくねぇよ!
そりゃ『気持ちわる』って言われるわけだよ!
ドン引きされるわけだよ!ちくしょう!
「ったく……」
愛姫が言いながら立ち上がり、こっちに近づいてきて―――
「なんて顔してんのよ。ほら」
ティッシュを取って俺の顔を拭き始めた。
「ぬぁ!?」
「動かないで、汚いんだから」
そのイケメンすぎる行動に俺の顔が沸騰するように赤く染まっていった。
その後しばらくの間、思考が停止した。
ちなみに、夕食に関しては宣言通り、愛姫が頑張ってお粥を大量に食べてくれた。
そんなちっさい身体のどこに入っていくんだろう……なんて不思議に思って見てた。
不味い不味いって連呼しながらも、手を止めずに食べ続ける愛姫の姿が男前すぎて惚れたのは、当然の帰結だろう。
そうだよね?
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