イマジン

 大学の図書館で「イマジン」を聞いた時、俺はてっきり夢の中にいるものだと思った。いや、実際俺は夢の中にいた。俺は夢の中にはいたけれど、その歌は現実の世界で流れていた。


 斜向かいに座っていた老人は、眼鏡の隅でじっと長髪の男のことを見つめていた。それはおそらく、その歌が男の耳に入ったイヤホンと男の口から少しずれて漏れていたからだろう。


 俺がもう一度隣の男に視線を戻したのと、男が言葉を発したのはほぼ同時だった。


「この歌、嫌いか?」


 その質問は的外れにしか思えなかったけれど、俺が返した質問もいい勝負だったと思う。


「今は何年だ?」


 男は天気を確認するみたいに図書館の天井を少しだけ見上げると、「二〇〇〇年を少し過ぎたくらい」と答えた。


 間違ってはいなかったから、俺はそれ以上何も言わなかった。わかっているならいい、ただそう思っただけだった。

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