コカイン

 青白い光がカーテンの隙間から漏れ入っていた。部屋の中は甘いような、すえたような匂いが充満している。


 ベッドに横たわる彼女の白い肌が薄闇に浮かび上がるのを見つめながら、男は煙草に火をつけた。コーヒーを飲みたかったが、あいにく狭い部屋には空き缶と吸い殻の山しかなかった。


 コンセントに繋がれたスマートフォンからは、エリック・クラプトンの「コカイン」が小さな音で流れている。


 男はベッドから這い出ると、吸いさしの煙草を灰皿に置き、シャワールームに消えた。熱いシャワーを浴びたかった。




 五分後に男が部屋に戻った時、煙草の火はまだ消えていなかったが、女は白いシーツにその痕跡だけを残し、消えていた。

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