第6話 旦那編 marito 3:冒険者登録所 Registro degli avventurieri
“初めての村„ の入口、といっても両側は自然石を積重ねた壁が続いているだけで、入口そのものは幅三メートルくらいの土道。なんとも素っ気ない。しかし、壁のラインを超えた瞬間、人の声と静かなBGM、マルチプレイヤーの世界に入った。
前を歩く人――キャラクタが二人
一人は細身の女性、チラリとこちらを見ただけで、関心ない風に歩き続ける。
もう一人はがっちりとした体格の男性、斧を担いで悠然と前方に進んでいる。
少し嬉しくなる。彼らと競いながらこの世界を生き抜くことになる。さて、できるだろうか? 幸運を祈ろう。
前に拡がるのは、木造りの大きな建物、三階建て?
二人に続いて扉を過ぎる。
木張りの床、の先にはいくつかのカウンター
何人かの新規プレイヤーと思われる人が、カウンター越しに受付と話している。
空いている綺麗なお姉さんに話掛けると、にこやかに応えてくれる。
「新しい冒険者さんですね。こちらで登録していただくことになっております」
登録用紙、と思われる紙を渡してくる。とてもゲーム内とは思えない。
で、記入できるのは、姓と名の欄だけ
「えと、自分で記述できるのは、姓名だけですか?」
「はい、登録は姓名だけとなります。ここで登録される姓名は変更することができません。名前についてはいくつかの制限がありますが、世界で唯一つ、ユニークでなくてはなりません。また、公衆良俗に背くものも登録できません。ミドル・ネームは希望すれば可能です。名だけだと、同じものが重なることが多いため、姓名ということになっています。普通に使用される名前であれば問題ありません。
キラキラ・ネームですか? むしろ推奨されています」
お姉さんの笑顔に負けて、素直に記入しよう。
これまでゲームで使用してきた、お気に入りの名前にする。
「結月琴音(Kotone Yuzuki)さんですね。たいへん良い名前だと思います。ユニーク・チェックもOKです。
ゲーム内で愛称などを使用されることは制限されていませんが、あまり怪し気なものは警告が出る場合もありますので注意して下さい」
「名前以外は全てシステムの設定ということですか?」
「はいそうです。年齢は登録時点で1歳となります。今日が誕生日ですね。あなたの場合は、建国2年
カレンダーについては、あなたの言う
「キャラクタの能力などはどうなっているんでしょう?」
「キャラクタの持っている能力データは、生成時に、あなたの性格に合わせてシステムが設定します。生成方法は非常に複雑なので、チュートリアルの中で概念説明をすることになっています」
「え? 見ることができるんですよね?」
「能力データは参照することができません。体感として捉えて下さい。もちろん修練すれば能力はアップしますが、それをプレイヤーに通知することもありません」
「HPもMPも、攻撃力も防御力も見ることができないんですか?」
「
……いや、これは、想像以上に大変そうだ。
「
お姉さんが続ける。ちょっとしたショックで言葉もないが、慣れているのだろう。
「どんなに歳を重ねても同じ風貌です。加齢による変化はありません。多少変更することは可能ですが、それはゲーム・ライフの中で判断して下さい」
うん、楽しそうだ。
自分の状態は自分で判断するしかない。ひとつのミスが致命傷になるかもしれない。
生き延びることすら難しい世界
うん、予想以上に楽しそうだ。
「登録が終了しましたので、あなたは
お姉さんが笑顔で宣告してくれる。
「称号 “世界に降立つ者„ が付与されます。左の胸辺りに、小さくて細長いリボンのような模様のマークが表示されますよ」
言われて、胸を見ると、確かにマークがある。
“草色地に白抜きの双葉„ 如何にも初心者という感じがする。
「それは、
これから先、多くの称号を貰うことになります。その度に略綬は増えて行きます。たくさんある人はベテランというわけですね。まだ誰も貰ったことのない略綬もあります。是非、頑張ってたくさん集めてください」
指先で略綬をそっと撫でてみる。粗目の布地――指にかかるような感触がする。
うん、と一つ頷いて前を見ると、お姉さんと視線が合った。
「気持ちは固まったようですね。では、ご案内します」
お姉さんに先導されて、奥にある扉の前に進む。
「この扉の先が “初めての村„ です。ここを過ぎれば、冒険者登録所に引き返すことはできません。
「ありがとう。出発します」
応えて、一歩踏み出す。
「あなただけのゲーム・ライフが始まります。長くこの世界で生活されることを祈念します」
扉を開く!
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