第19話 旦那編 marito 8:鍛冶屋さん La fabbra ferraia

「卒業に乾杯!」

「乾杯!」

 みんなの声が重なる。

「色々あったが何とか卒業だ」

「そうね。色々あったわ~、でもこれからよ~」

「そうこれからだ。私は次の町に向かうことにした。希望の町という名らしい。それでだが、みんな一緒に移動しないか?」

「あたしは、ミクと一緒にいくわ~」

 うぅむ……

「ことね、どうした?」

「なんだかね。自分の力が足りないと感じるんだ」

「それなら、早く先に進んで、強くなるのが良いのではないか?」

「いや、今の状態ならみんなの邪魔というか、脚を引っ張るような気がする。もう少しここで力を付けて自信を持って次に進みたいと思う」

「拙もしばらくこちらに居ることにする。拙は魔法が主なので体力が足りないというか、脆さを感じてしまのじゃ。こちらでしばらく防御系の魔法を伸ばすようにしたい。この世界では、しぶとくないと生き残れないようじゃしのぅ……」

「考え方はそれぞれよ。自分に合ったやり方がいちばんでしょ。別れてしまう訳じゃないし次の町で会えるわよ」

 ミクとエドは先の町に行くと言う。

 私は、はるっちとここに残ることにする。


 翌日、建国2年乾月かわきつき23日(23/Sacco/Auc.02)の朝に私たちは分かれる。

「それでは出発する。元気でな」

「次の町で待ってるわよ!」

 二人の笑顔に笑顔で応える。

「そうだね。直ぐ追い付けるように頑張るよ」

「拙も一緒じゃ、心配はないぞ」

 力強く前に進むミクとエドを見送る。

 今は、二人に並べるように頑張ろう。

 

 それから二三日は、はるっちと村の宿屋に宿泊し、付近のフィールドで、冒険者ギルドの依頼クエストをこなすことにした。

 朝は第一昼刻から第三昼刻までは依頼を進め、一度村に戻ってアイテムを整え直す。

 依頼クエストが達成できてなかったら、第四昼刻から残りを処理する。依頼クエストが終わっていれば、付近のフィールドを見て回る。

 慎重の上にも慎重に進める。“焦らず実力ちからを溜める„ が合言葉だ。


 生命の腕輪にも種々の情報が集まって来る。敵の属性や攻撃方法、生育場所や群行動などなど。ドロップは皮や肉が多い。レアってどんなものか未だ分からない。植物で食べられるやアイテムの材料になるもの、収集できる鉱物なども高く売れるものがあるらしい。

 一度大型の蛇に出会ったが逃げた。逃げるのも作戦……ということにしておこう。

 で、敵と戦う間に気付いた。ここのモンスターたちは一匹ずつ個性持ちだ。時々、全く同じに見えても妙に倒しにくいことがある。見掛けだけで強さを判断すると痛い目に会う。

 

「今日も終わったね」

 冒険者ギルドで、依頼クエスト完了報告をして、ドロップ・アイテムを売る。生活をしながらだけど、少しずつお金も溜まって来た。

「そうじゃの、ここまでは順調じゃ。拙は……」

 はるっちは何かを考えるかのように、頭を少し傾ける。

「次の町に進むには、まだ何か足りないような気がするのじゃ。明確な前衛が居ないというのもひとつの原因だとは思うのじゃが……」

「それでだけど、一度夜間戦闘をやってみない? そのために前衛を探そうと思うんだけど」

「ほうほう、次の町までは三日と聞く。そうなると途中の野宿カンペッジョは必須になる。夜間の戦いに慣れることも必要じゃな。それでどうするんじゃ?」

「ギルドで募集ということも考えたけど、怪し気なおっさんが来ても困るしねぇ」

「確かにそうじゃ」

「で、ちょっと心当たりがあるんだけど」


 宿屋の南側に拡がる空地に、いくつかのテントが点々としている。

「ここは何じゃ?」

「えとね。ここのテントは、直接他のプレイヤーとアイテムの売買をする人たちのものらしい」

「ほぅほぅ」

「他の町では、そういう売買を委託するところがあるらしいんだけど、この村にはないらかね。しかも、委託には手数料が掛かるらしいし」

「なるほど」

「この中に、女性の鍛冶屋さんが居るって聞いたので、その人に前衛をお願いできないかと思って」

「確かに、鍛冶屋なら腕力も体力もありそうじゃし、アイテム関連にも詳しそうじゃ。なかなか目の付け所が良い」

 誉められたのだか、なんだか……


「ここじゃないかな?」

 テントの側に小さな木の看板が立ててある。

 夕暮れで少し読みにくいけど、案内文がある。


 ディアの店

  装備品の修理などをいたします。

  鍛冶に関連するアイテムを買い取ります。


 可愛い丸文字で書いてある。これはおっさんじゃあるまい。

「いらっしゃぃ!」

 出てきたのは、文字に似合わずガッチリタイプのお姉さんだった。


「自分は、クラウディア・ポルポリーナ(Claudia Porporina)ちょっと変わった名前だけど気にしないでね。ディアって気軽に呼んでね。それで今日は何でしょう?」

 背が高いと迫力ある。


 テント前に設置してある椅子に座って、テーブル越しに話をする。

 内容はこう

  わたしたちは、いま二人でパーティをしているが前衛が居なくてつらい時がある。前衛としてパーティを組んで貰えないか?

  まだ始めて間もないのでアイテムについて良く分からない。色々教えて欲しい。

  敵についても分からないことが多いし、戦い方についてもアドヴァイスを貰えると嬉しい。

  そろそろ次の町への移動を考えているのだが、一緒に行って欲しい。


「この世界での、自分の誕生日は焔月ほむらつき23日、キミたちより二十日ほど早いのか。それ程知識を持っている訳ではないけど、いいよ。一緒にやってみよう」

「ありがとうございます!」

「二三日お試しでやってみて、上手く行くようなら次の町へ一緒に行こう。パーティは相性があるから、まずそれを確かめないと」

「そうじゃの、お互いどんなことが出来るか分からないし、まずは慣れることかの」

「あ~もう一ヶ月になるのかぁ。自分ね。次の町――希望の町っていうんだけど。そこへ行ったことあるんだ」

 ディアは話始める。


 ディアが初めての村に来た時、経験のある人、つまりキャラクタを創り直した人が何人か居て、この村に居ても意味がないと、何が何だか分からないうちに希望の町に連れて行かれた。

 その人たちから、直ぐに狩に行こうと言われたけど、自分は鍛冶屋になりたいと応えたら、そのまま放り出された。

 その人たちにとっては、鍛冶屋は使うもので成るものではないそうだ。

 所持金も少なく途方に暮れたけど、あちこち聞き回って鍛冶屋を見つけ出し、弟子にして下さいとお願いをした。

 師匠と言われる人は、鍛冶の簡単な基本を教えてくれた後に、最初からやり直した方が良いと、初めての村まで連れて帰ってくれた。

 その後、初心者指導所に入って本当に初めからやり直した。修了した後は、ここで腕を磨いている。


「何だか変な回り道をしたけど、それはそれで面白かった。略綬も “冒険者„ が着けられたしね」

 色んなゲーム・ライフがあるんだな、と聞き入ってしまった。

「キミたちを見て、そろそろ希望の町に戻ろうと思った。きっかけを作って貰ってありがたい」

「スタートからなかなか激しいものだったのぅ。拙たちは、まだまともな方かもしれんな」

「さて、とりあえずは第三祭ラ・フェスタ・テルツァまではこちらに居るのが良いと思う。何かイベントがあるかもしれない」

第三祭ラ・フェスタ・テルツァ?」

「ああ、季節の変わり目の祭日だ。この日を過ぎて祈月いのりつきに入ると、一気に気温が下がって寒さがだんだん増して来る。属性も火から風に変わる」

 そーいえば、指導所の講義で何か言ってたような……

「右胸に着いているバッジのようなものは何じゃ? 拙たちにはないものじゃが」

「ああ、これは血盟クランの標」

血盟クラン?」

「キャラクタ同士の集まり。他のゲームではギルドなんて言ってるところもあるけど、元々ギルドって言葉は “同じ職業の職人が集まって出来たもの„ だから、同業者組合みたいなものよね。ゲーム・キャラクタの集合体なら血盟クランって言う方が元の意味に近いと思うわ」

「なるほど、歴史を持つ言葉の意味は深いのぅ」

「自分は師匠に勧められて、鍛冶職人の集まる血盟クランに入会した。それでここに標があるわけね。デザインはクラン・マスターが決められるんだけど、著作権のあるものはダメ。某企業のシンボルマークが取り消されたこともあるらしい」

「なんで?」

「お金を出していない企業がゲーム内で宣伝するのは許せない! という運営の怒かも」

 そ、それは……笑うしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る