第19話 旦那編 marito 8:鍛冶屋さん La fabbra ferraia
「卒業に乾杯!」
「乾杯!」
みんなの声が重なる。
「色々あったが何とか卒業だ」
「そうね。色々あったわ~、でもこれからよ~」
「そうこれからだ。私は次の町に向かうことにした。希望の町という名らしい。それでだが、みんな一緒に移動しないか?」
「あたしは、ミクと一緒にいくわ~」
うぅむ……
「ことね、どうした?」
「なんだかね。自分の力が足りないと感じるんだ」
「それなら、早く先に進んで、強くなるのが良いのではないか?」
「いや、今の状態ならみんなの邪魔というか、脚を引っ張るような気がする。もう少しここで力を付けて自信を持って次に進みたいと思う」
「拙もしばらくこちらに居ることにする。拙は魔法が主なので体力が足りないというか、脆さを感じてしまのじゃ。こちらでしばらく防御系の魔法を伸ばすようにしたい。この世界では、しぶとくないと生き残れないようじゃしのぅ……」
「考え方はそれぞれよ。自分に合ったやり方がいちばんでしょ。別れてしまう訳じゃないし次の町で会えるわよ」
ミクとエドは先の町に行くと言う。
私は、はるっちとここに残ることにする。
翌日、建国2年
「それでは出発する。元気でな」
「次の町で待ってるわよ!」
二人の笑顔に笑顔で応える。
「そうだね。直ぐ追い付けるように頑張るよ」
「拙も一緒じゃ、心配はないぞ」
力強く前に進むミクとエドを見送る。
今は、二人に並べるように頑張ろう。
それから二三日は、はるっちと村の宿屋に宿泊し、付近のフィールドで、冒険者ギルドの
朝は第一昼刻から第三昼刻までは依頼を進め、一度村に戻ってアイテムを整え直す。
慎重の上にも慎重に進める。“焦らず
生命の腕輪にも種々の情報が集まって来る。敵の属性や攻撃方法、生育場所や群行動などなど。ドロップは皮や肉が多い。レアってどんなものか未だ分からない。植物で食べられるやアイテムの材料になるもの、収集できる鉱物なども高く売れるものがあるらしい。
一度大型の蛇に出会ったが逃げた。逃げるのも作戦……ということにしておこう。
で、敵と戦う間に気付いた。ここのモンスターたちは一匹ずつ個性持ちだ。時々、全く同じに見えても妙に倒しにくいことがある。見掛けだけで強さを判断すると痛い目に会う。
「今日も終わったね」
冒険者ギルドで、
「そうじゃの、ここまでは順調じゃ。拙は……」
はるっちは何かを考えるかのように、頭を少し傾ける。
「次の町に進むには、まだ何か足りないような気がするのじゃ。明確な前衛が居ないというのもひとつの原因だとは思うのじゃが……」
「それでだけど、一度夜間戦闘をやってみない? そのために前衛を探そうと思うんだけど」
「ほうほう、次の町までは三日と聞く。そうなると途中の
「ギルドで募集ということも考えたけど、怪し気なおっさんが来ても困るしねぇ」
「確かにそうじゃ」
「で、ちょっと心当たりがあるんだけど」
宿屋の南側に拡がる空地に、いくつかのテントが点々としている。
「ここは何じゃ?」
「えとね。ここのテントは、直接他のプレイヤーとアイテムの売買をする人たちのものらしい」
「ほぅほぅ」
「他の町では、そういう売買を委託するところがあるらしいんだけど、この村にはないらかね。しかも、委託には手数料が掛かるらしいし」
「なるほど」
「この中に、女性の鍛冶屋さんが居るって聞いたので、その人に前衛をお願いできないかと思って」
「確かに、鍛冶屋なら腕力も体力もありそうじゃし、アイテム関連にも詳しそうじゃ。なかなか目の付け所が良い」
誉められたのだか、なんだか……
「ここじゃないかな?」
テントの側に小さな木の看板が立ててある。
夕暮れで少し読みにくいけど、案内文がある。
ディアの店
装備品の修理などをいたします。
鍛冶に関連するアイテムを買い取ります。
可愛い丸文字で書いてある。これはおっさんじゃあるまい。
「いらっしゃぃ!」
出てきたのは、文字に似合わずガッチリタイプのお姉さんだった。
「自分は、クラウディア・ポルポリーナ(Claudia Porporina)ちょっと変わった名前だけど気にしないでね。ディアって気軽に呼んでね。それで今日は何でしょう?」
背が高いと迫力ある。
テント前に設置してある椅子に座って、テーブル越しに話をする。
内容はこう
わたしたちは、いま二人でパーティをしているが前衛が居なくてつらい時がある。前衛としてパーティを組んで貰えないか?
まだ始めて間もないのでアイテムについて良く分からない。色々教えて欲しい。
敵についても分からないことが多いし、戦い方についてもアドヴァイスを貰えると嬉しい。
そろそろ次の町への移動を考えているのだが、一緒に行って欲しい。
「この世界での、自分の誕生日は
「ありがとうございます!」
「二三日お試しでやってみて、上手く行くようなら次の町へ一緒に行こう。パーティは相性があるから、まずそれを確かめないと」
「そうじゃの、お互いどんなことが出来るか分からないし、まずは慣れることかの」
「あ~もう一ヶ月になるのかぁ。自分ね。次の町――希望の町っていうんだけど。そこへ行ったことあるんだ」
ディアは話始める。
ディアが初めての村に来た時、経験のある人、つまりキャラクタを創り直した人が何人か居て、この村に居ても意味がないと、何が何だか分からないうちに希望の町に連れて行かれた。
その人たちから、直ぐに狩に行こうと言われたけど、自分は鍛冶屋になりたいと応えたら、そのまま放り出された。
その人たちにとっては、鍛冶屋は使うもので成るものではないそうだ。
所持金も少なく途方に暮れたけど、あちこち聞き回って鍛冶屋を見つけ出し、弟子にして下さいとお願いをした。
師匠と言われる人は、鍛冶の簡単な基本を教えてくれた後に、最初からやり直した方が良いと、初めての村まで連れて帰ってくれた。
その後、初心者指導所に入って本当に初めからやり直した。修了した後は、ここで腕を磨いている。
「何だか変な回り道をしたけど、それはそれで面白かった。略綬も “冒険者„ が着けられたしね」
色んなゲーム・ライフがあるんだな、と聞き入ってしまった。
「キミたちを見て、そろそろ希望の町に戻ろうと思った。きっかけを作って貰ってありがたい」
「スタートからなかなか激しいものだったのぅ。拙たちは、まだまともな方かもしれんな」
「さて、とりあえずは
「
「ああ、季節の変わり目の祭日だ。この日を過ぎて
そーいえば、指導所の講義で何か言ってたような……
「右胸に着いているバッジのようなものは何じゃ? 拙たちにはないものじゃが」
「ああ、これは
「
「キャラクタ同士の集まり。他のゲームではギルドなんて言ってるところもあるけど、元々ギルドって言葉は “同じ職業の職人が集まって出来たもの„ だから、同業者組合みたいなものよね。ゲーム・キャラクタの集合体なら
「なるほど、歴史を持つ言葉の意味は深いのぅ」
「自分は師匠に勧められて、鍛冶職人の集まる
「なんで?」
「お金を出していない企業がゲーム内で宣伝するのは許せない! という運営の怒かも」
そ、それは……笑うしかない。
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