第12話 旦那編 marito 5:初心者指導所 La scuola per novizi

 講義内容とか全然頭に入らん!

「ことね! 生きてるか?」

「あー、ミクか。全然ダメだ。頭がウニ状態、こんな面倒なこと覚えられん」

「心配しないで、あたしなんか全然理解できないわ!」

「大丈夫じゃ、拙も全く理解できん」

「特に、システムの説明とか、日本語か? 異星人アリエーノ語としか思えん」

 教室にある机にうっ伏し、頭を上げる気力すらない。

「実技さえ何とかなれば、良いんじゃないか? 講義内容は生命の腕輪に記録されてるしな」

「え、あの話って生命の腕輪に記録されてるんだ。特にメモしなくていいってのは、そういうことか。スーパー・アイテムだな」

「それより、あと二日じゃ。今日の午後は本格的にフィールドでの戦闘じゃ、最終日の明日は朝からパーティ戦じゃぞ」

「そうか、あの恐怖の講義は終わったのか……残りは実戦だけかぁ」

「そうよ、みんなで頑張りましょ、パーっと盛り上げるのよ」


 よし、今日から実戦に入る。

 わたしの担当は、ラルフ・シュルツ教官だ。

 今までの実技から、戦い方を確認する。


 女性はどうしても力負けするので、素早さで回避するのが良い。

 短剣スパーダ・コルタは片手剣なので、それは右手に持つ。左手は盾という選択肢もあるが、私の場合は盾を持たず魔法を使って敵を撹乱する。

 幸い魔法はまずまずだった。四属性ともそれなりに発動した。私は風属性向きらしい。

 ここは砂漠地帯なので、火・地属性のモンスターが多い。なので当面は水と火の魔法を優先させることになる。


「それでは、行こうか」

 ラフル教官の先導で、初めての村の北側出口からフィールドに出る。

「初めての実戦となるが、心配することはない。これまでの訓練で十分敵を倒せるようになっている。思い切ってやってみるといい」

「はい」

 元気よく、応えてみよう。

「手に余るようなら助太刀するので、まず死ぬことはない」

 頷きながら、教官と並んで、砂と粗い土が続く砂漠を進む。

 と、近くで動く獣らしき影、白と黄茶の毛皮、黒い目。体長は五十センチくらい。

「イエロー・ハムスターだな。一匹だし丁度いい。倒してみろ!」

 前に進んで対峙すると、歯を剥き出し尻尾を地面に叩き付けて威嚇してくる。

 短剣スパーダ・コルタを構えて一歩踏み出すと、跳び掛って来る。

 左に回り込んで避ける。意外に素早い。

炎の球パッラ・ディ・フィアンマ!」

 火を爆発させて気を逸らせる。

 思い切り踏み込んで、切り掛る。手応えあり!

 敵は一瞬黄色く光って消えて行く。

「よし、上出来だ。今のように、確り当てれば一撃で倒せる。だが、外れたり掠ったりして倒せないことも多い。相手が倒れるまで気を抜かないことだ」

 初バトルは何とかなった。

「それじゃあ、生命の腕輪を見るんだ。いまのモンスターが登録されているはずだ」

 確かに、イエロー・ハムスターが登録されている。姿と特徴――火属性?

「気が付いたようだな。モンスターは属性を持つものが多い。敵の属性に強い属性攻撃をすれば、与えるダメージが大きくなる。この場合は水属性攻撃だな。同属性の攻撃はほとんどダメージがない。いまの攻撃は気を逸らすために使ったと思うので問題ないが、同属性の攻撃で回復グァレンテする敵も居る。魔法はよく考えて使うことだ」

「剣に属性はないんですか?」

「その短剣スパーダ・コルタには属性はない。無属性ということだな。属性武器は効果が高いのだが、使い方は難しい。慣れるまでは勧めない」

「分かりました」

「知識は武器なのだ。それを忘れるな。“彼を知り己を知れば百戦殆ふからず„ という言葉は本当に深い真理なのだ。それに続く言葉は余り知られてないようだが、こうだ。“彼を知らずして己を知れば一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば戦ふ毎に殆ふし„ 」

「無鉄砲は長生きしないということですか?」

「あぁ、そうだな」

 渋い笑顔が心に染みる。


 その後、教官と一緒に、黒っぽい毛皮のハネネズミや狐みたいなフェネックを倒して行く。

 夫々特徴があり、攻撃がかわされることも多い。これが群れで来たら、今の自分の能力では対処が難しいと感じる。

「だいぶ慣れて来たようだな。今のやり方で問題ないと思う。戦い方スティーレ・バッターリアは人それぞれだ。人はそれぞれ能力も性格も経験も違う。自分のやり方を創り出して行くことだ」


 時間も過ぎて来たし、そろそろ引き返そうかと相談している時に見つけた。

 砂漠の中に少し大きめの岩があり、その上に黒っぽい獣が居る。

「ほう、トビウサギだな。ちょっと面倒かもしれないが、やってみろ! 今までとは違い、色んな攻撃をしてくるぞ」


 前に行こうとすると、いきなり跳び掛って来る。何とか横っ飛びに避けたが、かなりの距離跳べるらしい。確かにいままでの敵とは違う。

 砂が舞い上がったかと思うと、石の塊が飛んでくる。

風の球体パッラ・ディ・ヴェント!」

 風の魔法で弾いたが、脚で蹴って石を飛ばしたらしい。こんな攻撃もして来るのか。

「そいつは無属性だ。魔法を使え!」

 教官の声、よし遠慮はいらないな。

火の矢フレッチ・ディ・フォコ!」

 数本の火の矢を放ち、追うように踏み込んで、切り掛かる。

 浅いか

 右肩に衝撃! 

 距離を取って何とか踏み止まる。

 キック攻撃まであるのか

 距離を取って牽制し合う。

 さて、どうしてやろうか?

 剣を下げて隙を造る。

 敵が飛ぶ!

炎の壁ムーロ・ディ・フィアンマ!」

 誘いの隙なんだよ!!

 トビウサギは、炎の壁に激突して倒れる。

 ちゃぁあんす! 倒れたウサギに短剣スパーダ・コルタを突き立てる。

 悲鳴と共に黄色の光が破裂し、消えて行く。

 ふぅ、何とか倒した。

「うん、上出来だ」

 教官は褒めてくれた。


 日が傾いて来たので引き返すことになった。

 夜はまた状況が違うらしい。初めからなかなか大変だ。

「それでは今日の指導はこれで終わる。悪くない成果だと思う」

 教官からのお言葉だ。

「ありがとうございます」

 素直に頭を下げておこう。

「何でもそうだが、最初が難しい。死にやすい時期だしな。無理をせずに経験を重ねることだ」

 ここも素直に頷いておこう。今日も危ない所があったしな。

「明日はパーティ戦だが、ソロとパーティの戦い方の差というものを感じて欲しい」


 教官のお話も終わったので、教室兼談話室?に行ってみよう。

 みんな戻って来てるかな?

 教室に入るとミクの声

「おお、ことねも戻ったか、どうだった?」

 元気だな~、颯爽と実戦をこなした風だ。

「何とか初戦が終わったって感じかな。トビウサギがちょっと面倒だったけど」

「あたしは怖かったわ~~。夢中で武器を振り回すだけだったわ」

 いや、お前は楽勝だったんじゃないか?

「拙は、和本が鈍器というのを初めて知ったわ。これで敵を叩けというのか? 確かに角で叩けば多少は痛いのかもしれんが」

「和本に属性かけられないの? そうしたらダメ出るんじゃない?」

「ほうなるほど、確かにそうじゃな。明日試してみよう」

 まぁまぁとミクがまとめる。

「なにはともあれ、みんな無事に帰って来たんだ。夕食をしながら話をしよう」

 みんなやる気十分だな。

 明日は最終日か、早かったなぁ

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