おもしろ夫婦のゲーム・ライフ La dolce vita per due giocatori

石動 守

第1話 0:きっかけは Prologo

 天空から雫が降りてくる。

 それが心臓の真ん中で破裂し、波紋が虹色となって全身に絡みつく。

 ふわふわと、魂が舞い上がり、中心から渦が発生

 浮世の垢を弾き飛ばそうとする。

 長年染み付いた欠片どもはなかなかしぶとい。

 えぇい! 煩い奴らめ!

 意識が爆ぜる。


「ゲームがやりたい~~!」

 と叫んでいた。

「やれば?」

 夫が冷静に応える。

「違うのよ! もっとこう……血が滾る様な……心が燃え上がるような……」

「萌え上がってやれば?」

「いや、それ字ちがう。そうじゃなくて

 なにかこう……ハマりコむような……人生捨ててもいいような……」

「魂の叫びを無為にすることはできない。これが真実、とりあえず探してみよう」

 そういう訳で私たち夫婦はネットの中で泳ぎ回ることとなる。


 いろいろ、色々、イロイロ、本当に彼方此方、探し回ったのだが、どれもこれも何処かに在るような、お約束のものばかり

 生の身体で感じたいのよ。ゲームを!

 生命のやり取りくらいの危機感が欲しいのよ。

 確かにお手軽に遊ぶにはいいかもしれない。

 でも、そうじゃないの。燃え上がりたいの、全身全霊で戦ってみたいの


 で辿り着いた。

「イル・モンド?」

「うん、“世界„ って意味だね」

「どうしてこれ?」

「情報がないんだよね~、普通オンラインゲームって攻略サイトが必ずあって、事前にある程度の知識が得られるんだけど。これは、あやふやな情報ばかりで、まとまった攻略サイトなんかない」

「なんでだろ?」

「なんだか、状況というか状態というか、どんどん変化して、普通のゲームのような固定情報が全く役に立たないらしい」

「常に新鮮、一期一会ね」

「これなら緊張感が維持されそう、とは思う」

「分かった試してみようよ!」

「それじゃ必要機材を買いに行こうか」

 夫と二人で電気街へ向かう。


 で、始める前に夫といろいろ相談した。

「一緒に始めるのはいいとして、最初から一緒に行動する?」

「嫌よ! 毎日見てる顔とゲーム内でも一緒とか」

「愛情について、小一時間ほど話合う必要がありそうだけど、一緒の行動が制約になりそうだというのは理解した」

「お互いにキャラ名は教えないし、何処に居るのかも知らせない。全くの別行動にしましょ!」

「まぁ、そうすれば、ゲーム内で出会ったとしても、本人かどうかも分からないから、それはそれでいいと思う。でも夫婦生活に重大な影響が出るようなら、そこは相談だね」

「そこは自重します」

 なんだかんだと優しい夫、この人から離れる気はない。その人生だけは捨てないように気を付けよう。


 こうして、私たち夫婦のゲーム・ライフは開始される。

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