第2話 旦那編 marito 1:キック・オフ Calcio d'inizio

 必要機器を設定し、ゲームサーバーへ接続

 なんともバタバタした始まりだったが、やっとここまで来た。

 パスワード設定、受付完了

 

 ワクワク感と緊張感が止まらない。

 ニュー・ゲームを始めるときはいつもこうだ。

 さて、どんな人生が待っているだろうか?

 ログ・インアッチェッソ


 画面が波打ち、吸い込まれる。

 七彩の粒が取り囲み、身体を溶かして行く。

 手も脚も無くなり、感覚すらも消し去られる。

 存在自体が分解され、光粒に同調して、混濁する。

 意識すら無となり、世界へと取り込まれる。


「ようこそ、我が世界へ」

 薄明るい黄灰色の世界で、聞こえて来る。

「ここは?」

 辛うじて自分が居る。としか感じられない。

 身体を動かそうにも反応しない。見るのも実際か疑わしい。

 ただ、イメージの中に浮かんでいる。そういう感覚しかない。

世界イル・モンドへの入口と言えばよいのだろうか」

 年老いたとも思える声、否、声ですらないのかもしれない。

「やっと、辿り着いたみたいだな」

「そのとおりだ。貴殿の新しき人生が始まる」

「何をすればいい?」

「ほう、こういうゲームには慣れていらっしゃるのかな?」

 淡い光の中で、それは姿を現し始める。

「ここで動揺される方々も多いのだが」

「最初はキャラクタ作成ではないのか?」

 灰白色の雲の中に影らしきものが見えて来る。

「確かに仰る通り、しかしながら、いくつかの重要事項を説明する必要がある。もどかしいのは理解しているが、最低限のことは納得していただかないといけないのだ」

「というと、普通のゲームにはないルールがあるってこと?」

「そのとおりだ」

 影には次第に輪郭ができ、人の形になって来る。

「まず」

と語り始める。

 キャラクタはひとつしか作成できない。

 キャラクタが死亡した場合、全てが失われる。救済はあり得ない。

 キャラクタが持っていた金銭、アイテム、スキル等は全て無くなる。

 死亡後に再作成はできるが、以前のキャラクタと同じものはできない。何も引き継がれない。


「つまり人格はひとつってこと?」

「そうだ。分かりが速くて助かる」

「なかなか緊張感のありそうな」

「ゲーム自体は、始めればおいおい分かって来るだろう。当初は無茶なことは要求していない。チュートリアルに当たるものも用意されている」

「そうか、ではやってみたい。早速キャラクタを作りたい。どうやればいい?」

「心配はない。これから各種の質問をするので応えればよい。それもイメージの中でなので、単に反応すれば良い。貴殿に相応しきキャラクタが創生されるであろう」

 世界が揺れる。


 全身を突き回される圧迫感

 色、赤・青・黄・緑・紫・橙

 酸っぱい、甘い、苦い。こってり、さっぱり。

 跳ね回る光、墜ちて来る水流、燃え上がる炎、絡みつく草と木

 業火、雷鳴、地割れ、そして波

 図、写真、動画

 動物、人、人、人

 内部世界に土足で入り込まれ、部屋を滅茶苦茶にされるような


 突如、混沌は収まり、声がする。

「お手数をお掛けした」

 薄い灰白色の中、自分の身体が感じられる。

「ありがとう。これで行けるのだな」

「左様、良きゲーム・ライフを」

 世界がフェード・アウトする。

 人影は、最後まで人影でしかなかった。

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