第17話 奥編 moglie 6:三人一緒! Con compagni!

 風が窓を叩く。

 木擦れの音が耳をくすぐる。

 今日で指導も終わり、最終日だ。

 教官の指導を受けながら、三人のパーティで戦う。

 昨日はソロだったけど、今日はどうだろう?

 集合場所の広場左端に向かう。


 サヤとゲッツが軽く手を挙げて迎えてくれる。二人とも準備は十分なようだ。

 こちらも手を挙げて応える。

 

「よし、揃っているようだな」

 御厨教官が新しい教官を連れて待っている。

「こちらは、ユルドゥズ教官だ」

「ファズル・ユルドゥズ(Fazıl・Yıldız)という。ゲッツの担当をしている。彼もなかなか優秀だが、君たちも実力は十分と聞いている。期待している」

 目付きの鋭いがっつりタイプのお兄さん。ゲッツより大きな槍を持っている。前衛にしたら頼りになるかも

「さて、出発しよう。君たちが先行してくれ。我々は居ないものとして行動して構わない。行先も任せる。その辺は自由にして欲しい」

 御厨教官の指示でボクたちから出発する。

 期せずして、ゲッツ、サヤ、ボクの順になる。

「ふむ……」

 教官が何か言っているようだが気にしないことにする。

「俺は前方を見張るので、アルフィ後ろは頼んだぞ」

「了解、後方からの奇襲は少ないと思うけど、十分注意する」

「わたしは、空中敵を見張る。弓はそういうのが得意だからな」

「遠距離がいると便利だ。槍はどうしても飛んでるものには対処しにくい」

 役割について簡単に話し合いながら、位置取りを確認する。

 昨日通った道だけど、警戒しながら進む。同じ状況にはならないと聞いているしね。

 

 突然の羽音! スズメバチと思った瞬間

 サヤの弓弦ゆんづるが唸る。ハチは一瞬で空中に散る。

 弓の威力は魔法とは異質だ。打撃は一点に集中するし、攻撃距離も長い。連射も利く。

 ただ、状況判断力が問われると思うし、難しい職能だ。


 スズメバチやオオヤンマが時々出て来るが、サヤの弓でほぼ一撃だ。

「これは楽だ。俺の出る幕がない」

「確かに先に見つけた時の弓は強い。しかし奇襲受けた時や敵に接近されると極端に弱いのだ。そういう意味では癖の強い武器だと言える」

「接近する敵は、ボクが迎撃するよ」

「そうして貰えると有難い」

 サヤの笑顔に少し和む。


 前方から襲って来る二匹のミドリドクガエルを迎え撃つ。

 一瞬、ゲッツに緑色の淡い霧が取り付く。毒?

 迷わず解毒剤ポツィオーネ・ディジントッシカンテを使う。

 薬剤ポツィオーネ瓶が頭上で割れ、緑の液体が散る。

「有難い!」

 毒異常の解けたゲッツが槍を突き出す。

 貫かれたカエルは黄色の光を出しながら消えて行く。

二重撃コルポ・ドッピオ!」

 残ったもう一匹のカエルに、サヤの弓から放たれた二本の矢が襲う。

 破壊されたカエルが一気に消滅する。

「すごい威力だね!」

「いや、ゲッツが上手く引き付けてくれた。落ち着いて狙えたのが大きい」

「引き付けただけで敵が溶けて行く。パーティ戦は久しぶりだが、効果の大きさを感じるな」

 

「さて、第四昼刻に入った頃だろう。昼食にしよう。それで野宿カンペッジョの準備をしてくれ。どういうやり方をするのか見たい」

 御厨教官に言われて、野宿カンペッジョの場所を探す。

「さて、どうしよう?」

「森側は奇襲を受けやすい。草原側で乾いた場所が良いだろう」

 ミクの意見は尤もなので、三人で探すことにした。

「あの辺はどうだ?」

 ゲッツの声、背が高いと見通しも良いのか?

「あまり広くはないが、三人なら十分だろう。教官はないものとして良いと言われたからな」

 ゲッツは先を急ぎ、土壁を造り始める。

「器用なもんだ」

 ミクの声に、ゲッツは苦笑いで応える。

「俺は、ソロが長いのでこういうことは良くやって来たのだ。この世界でも地魔法を優先して覚えている」

 テント・パックを展開して確認している間に、ゲッツは竃まで造り上げた。

「鍋を持ってきたので、これを利用しよう」

「水は魔法で出せばいいよね」

 ゲッツがテントを展開している間に、湯を沸かす。

 茶葉はボクが準備して、お茶を淹れる。

「いやいや、移動中に温かいお茶が飲めるとは思わなかった」

「んじゃ、これもどうぞ」

「おお、乾燥果実フルッタ・セッカか。用意がいいな」

「行動中の甘いものは疲労対策に良い」

「でも疲労って状態異常あるのかな?」

「俺は疲労を感じるから、やはりあるのだと思う。毒でもかなりダメージを感じたからな。この世界の状態異常は注意が必要だと思う」

 なかなか大変だ。でもそれもゲームのうち……


「あー、なんだか心も身体も解れるような気がする。やっぱり緊張していたのかなぁ? 壁に囲まれていると安心感もあるし」

「確かに野宿カンペッジョは何処で必要になるか予想が付かないし、適当な場所がないこともあるだろう。こういう地魔法は考えて置く必要がありそうだ」

「それほど難しくはないぞ。俺で良ければ教えよう」


「よし、問題ない。撤収して戻ろう」

 教官の指示で撤収を始める。

 テントをたたみ、地魔法で造ったものも均して置く。

 テキパキと片付けていたのだが、教官が独言のように言う。

「三人とも初心者のレベルではないな。この時期にこれだけのことができるのは、たぶんだが、他のゲームでかなり色々とやって来たのだろう。この世界に上手に適応して欲しいものだ」


 戻る途中で事件は起きた。

 数羽の鳥が襲って来る。黄赤っぽい背中で腹側が白い。

 瞬時に、弓と石礫で叩き落としたのだが、何だか森の中が騒がしい。

「アカネモズだ。何かの拍子に集団で襲って来ることがある。気を付けろ!」

 ユルドゥズ教官の声に合わせるかのように、数十羽の鳥が真直ぐ向かって来る。

 弓の連射と石礫で迎え撃つ。

「近づくやつは俺が叩き落とす。飛び回るのは頼むぞ!」

「分かった!」「了解!」

 言っている間に鳥の数が増える。

地の球パッラ・ディ・テッラ!」

 地魔法の球体を打ち上げる。衝突した鳥が次々に落ちて行く。

「予想通り、風属性みたい! 地魔法は有効だと思う」

「承知! 地の壁ムーロ・ディ・テッラ!」

 ゲッツの地魔法が、三人の前方、腰から下辺りを守る様に展開される。

「サキ! 少し見通し悪くなるけど、よろしく! 砂塵ポルヴェローネ!」

 砂を巻き上げて鳥たちの動きを撹乱する。

「問題ない! 矢の流星メテオーラ・ディ・フレッチ!」

 打ち上げた矢束が炎を引きながら鳥群に襲いかかる。

 ゲッツは槍を回すようにして鳥を次々に叩き落とす。


「ふう、なんとかなった」

「やっと引き上げてくれたか、やれやれだ」

「そう悲観することばかりじゃないぞ。奴等はごっそりアイテムを落として行った。大分稼げたようだ」

 笑うゲッツはまだ余裕ありそうだ。


 無事に村に戻り、今日の指導は終わった。

 教室に戻り、教官から最後の話があるようだ。

「良くやった」

 御厨教官が話始める。

「予想以上に実力を付けていると思う。このまま次の町へ行っても十分通用するだろう。焦らず、驕らず、力を伸ばして欲しい」

 あまり笑顔を見せない人だが、今日は機嫌が良いようだ。

「さて、これで全ての指導が修了した。君たちに “冒険者„ の称号が付与される。略綬も色が変化する」

 “冒険者を目指せし者„ の略綬の地色が、朱鷺から真紅に変わっている。

「これで、君たちも一端の冒険者だ。しかも平均からかなり上の実力は十分あると思う。油断をせずに一歩一歩段階を踏んで上を目指して欲しい」

 ゲッツが軽く手を挙げて話始める。

「教官、ひとつ聞きたい。ここの冒険者は何を目標にして生活してるんだ? “魔王を倒して世界を救う„ とか “女神を復活させて新世界へと導く„ そういうありがちな目標が全く見えてこない」

「早くもそれに気付いているのか。ここには、そういう目指すべき目標とか達成すべき事柄などはない。“人間が大勢集まったとき、人は何をするか?„ というのが大きな研究テーマだからだ。ここにはマス・メディアが存在しない。情報を極端に制限するのも研究に沿った考えだからだ。

 ここで出来るのは、冒険者ギルドを通して、友人に郵便ポスタを送ることと、吟遊詩人たちによる事件の伝達だ。これくらいしかニュースが入って来ないのだ。そういう状況の中で自分の目標を見つけ出して欲しい。我々が何かへ誘導することは禁止事項なのだ。言えるとすれば、叙事詩サーガを聞いて欲しいということくらいだな」

「なるほど、自分で見つけろと。俺には向いているかもしれない」


 指導所でやることは全て終わった。

 ささやかな祝宴ということで、三人で酒場に集まる。

 サヤから話が始まる。

「さて、これで指導所も最後の夜だ。これからどう行動するか決めないか?」

「ボクから提案だけど、次の町まで一緒に行かない?」

「俺はいいぜ。ここもそれなりに整っているとは思うが、腕を磨くなら次の町が良いだろう。教官からも話があったしな」

「わたしもそう思う。ここに留まって腕を上げるというのも一つの選択だとは思うが、思ったより人が少ない。次の町に期待したい」

「そうだよね。それで、移動するならソロより三人の方が心強いしね」

「ずっと一緒に行動というのも芸がない。俺はソロ指向だしな。とりあえず次の町へ行って、それから一旦解散しないか? 何も別れてしまう訳ではない。気が向いたらまたパーティを組めばいいのだ」

「向こうには様々な冒険者が居るだろう。その中で揉まれながら自分のやり方を身に着けて行く。定番で王道だな」

「ボクからだけど、移動するときは、解毒剤ポツィオーネ・ディジントッシカンテは十分に準備した方が良いと思う。この世界の毒はかなり危険だと感じたね」

「ああ、かなりのモンスター・ドロップもあったし、金に多少の余裕はあるしな。準備は怠りなくだ」

「確かに、回復グァレンテ魔法は何とか会得したが、我々は解毒ディジントッシカンテ魔法を持っていない。そこの注意は必要だ」

「ボクが今一番欲しいスキルだね」

「俺は、次の町までの道程は三日と聞いた。不慮の事態に備えて六日分の食料は必要だろう。知らない場所に行くのだから余裕が必要だ。途中でモンスター・ドロップや収集による補充も考えよう」

「みんな慎重だね」

「このゲームは一発退場だからな。二人とも俺よりHPが低いだろうし、安全第一で行こう」

「ああ、こんな所で退場となったら笑い者だしな」

 ボクたちは、次のステップの話で盛り上がった。

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