第13話 sideマリアナ
私はお父様に言ったようにお姉様に会いに行った。
お姉様の住まう別館は相変わらず人も物も少なくて、閑散としている。とても寂しい世界にお姉様はいる。
それが気がかりで私とお母様は何度も本館に行くことを提案したのだけどお姉様は首を縦に振ってはくれない。
可哀そうなお姉様。いつまでもお義母様の死に捕らわれている。
「こんな寂しいところに閉じこもっていらっしゃるなんて精神的にも良くないわ」
やはり、お姉様には一刻も早く本館に移ってもらった方が良いわね。
幸い、明日から私も王妃教育でお邸を離れるし。
「あ、アンナ」
ちょうどお姉様の部屋から出てきたアンナが居たので呼び止めた。アンナはあまり表情が動かない・・・・・というか、ない。そのせいで何を考えているのか分からなくて苦手だ。
お姉様の傍に仕える人にはもっと明るい人の方が良いような気がする。後で、お父様に言ってみようかしら。これも、お姉様の為よね。
私がお邸からいなくなったらお姉様も寂しい思いをされるでしょうし。なら、尚更アンナではなく、気が利いて、明るい人の方が良いわね。
「お姉様と話がしたいの」
「直ぐに確認してまいります」
「部屋にいるんでしょう。自分で確認するから大丈夫よ。ああ、それとお茶は私が淹れるから用意だけお願いしていいかしら?」
「主人に確認するのは専属侍女である私の役目です。それと、お茶の件ですが、主人に不審な物を口にさせるわけにはいかないので私が淹れさせていただきます」
アンナはよく言えば真面目。悪く言えば融通の利かない侍女だ。
「家族と話すのにいちいち確認が必要なの?お茶だって、私、上手く淹れられるわ。不味いお茶何て出さないわよ」
「不味いとは思ってない。信用できないだけ」
「?アンナ」
声が小さくて何を言っているのか分からなかった。聞き返してもアンナは答えてくれない。仕方がないのでもう一度お願いしようとしたら部屋の中からお姉様の声が聞こえた。
「構わないわ、アンナ。お通しして」
さすがはお姉様。家族なんだもん。会うのに確認がいるなんて寂しすぎるわ。アンナはお姉様と違ってそこが分かっていないのよね。
お姉様の命令に忠実なアンナはすぐに私をお姉様の部屋に通してくれた。
「アンナ、お茶を」
「畏まりました」
「あ、私が淹れるわ」
立とうとする私をお姉様が止める。
「使用人の仕事を取るものではないわ。上の者は下の者が生活できるように仕事を与えるのも義務の一つよ」
そう言ってお姉様はアンナの淹れたお茶を飲む。さすがは生粋の貴族。お姉様の仕草は清廉されていて、とても美しい。
「でも、私。私が淹れたお茶を飲んで欲しかったんです」
「それは貴族のすることではないわね。あなたは、いつまで平民気分でいるつもりなのかしら?」
お姉様の語る貴族の過ごし方やあり方はとても大事なことだというのは分かる。でも、家族としてまでそれを徹底するのは何だか寂しすぎる。折角の家族なのに絆が希薄だ。
やっぱり、こんな寂しいところで籠っているから絆の大切さとかが分からなくなってしまったんだろうか。
お父様に言って、無理にでもお姉様には別館に移ってもらった方がいいかもしれない。きっと、その方がお姉様の為よね。
「それと、アンナの対応に何ら問題はなかったわ。あれが普通よ。それと、何の用事かしら?」
お姉様の言葉で私はここへ来た目的をすっかり忘れていたことに気づいた。
もしかしたら、お姉様に嫌われるかもしれない。そう思うと体に緊張が走り、ぐっと全身に力が入った。
大丈夫。誠実に謝れば許してくれる。
私は心を落ち着かせるために深呼吸をする。
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