第26話

カール殿下はその後、廃嫡され、伯爵の地位が与えられた。

領地は王都からかなり離れた辺境の土地。

父は直ぐにでも婚約を破棄して、マリアナに新たな男を宛がおうとした。

けれど、マリアナがそれを拒んだ。

「お父様、心配してくださりありがとうございます。ですが、私はカール様が好きなのです。あの方の地位を好きになったわけではありません。愛があれば、身分なんて関係ありませんわ。それにどこかほっとしている自分もいるんです。やはり、私には王妃は向いていなかったようです」

そう言ってマリアナは苦笑した。その顔を父とルルシアは痛ましそうに見つめる。場が白ける三文芝居だなと思いながら眺めている私の心が歪んでいるわけではないと思う。

「私なら大丈夫です。カール様と二人、支えがら生きて行きます」

マリアナは私に「お父様とお母様をお願いします」と言ってカール様のいる辺境の地へ飛び立った。当然だけど、私が二人を支えるような生活を送るわけがない。

ちょっと前に隣国に居る叔母様にお手紙を書いて、色よい返事をもらった。カール様廃嫡の一か月後には叔母様の迎えが着たので私は父と離縁して、叔母様の養子にって隣国へ行った。

アンナとジルを連れて。

叔母様は最初からルルシアとの再婚には反対していたし、叔母様は残念ながら子供に恵まれなかったので私が養子になるという話はすんなりと通った。


◇◇◇


廃嫡されたことがよほど気に入らなかったのだろう。カール様は領地経営を放棄。毎日酒浸り。

お金がなくなると税金から巻き上げる。そして、そのお金でお酒を買う。それをずっと繰り返す。

「カール様、お酒は体にあまり良くないわ」

「うるせぇっ!」

「きゃあっ」

苦言を呈するマリアナに向かって空の酒瓶を投げつける。酒瓶はマリアナの後ろの壁に当たり、砕ける。幸い、マリアナに怪我はなかったが、今まで優しかったカールの豹変がマリアナはショックでたまらなかった。

たとえ、王太子でなくなっても愛があれば幸せな家庭を築けると思っていた。父と母のように。

けれど、現実は違った。

苦言を呈するマリアナをカールはやがて煙たがり、遠ざけるようになった。どこかの女を邸に連れ込むようにった。

二人、愛し合うはずの部屋から自分以外の女の甘い声が聞こえる度にマリアナの心にはひびが入っていった。

領民からは「食べるものがない」や「税を納める為の金がない」という嘆願が大量に邸に届くようになった。マリアナはそんな彼らを救わなければと炊き出しをしたり、わずかな金子を持たせたりした。

当然だけど上手くいくはずがない。根本的な解決になっていないのだから。

結局二人の新婚生活は一年で破綻。

マリアナはカールと離縁して実家に帰った。もちろん、父と母はそんなマリアナを快く迎い入れた。すぐに彼女に相応しい婚約者を探したが見つかるはずもない。

婚約披露宴での失態は記憶に新しい。それに公爵家はあの日以来、社交界での発言力を失い、衰退の一途を辿っていった。

今まで父の取り巻きをしていた貴族たちはあっさりと手のひらを返し、公爵家は没落した。と、風の噂で聞いた。その後、あの三人がどうなったかは私は知らない。

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