第17話 sideマリアナ
「ねぇ、ガナッシュ様」
王妃様が部屋から出て行ったあと、私は王妃教育用の勉強部屋に留まっていた。王妃様のお言葉がショックで、すぐに動くだけの気力がなかったのだ。
私は傍で護衛してくれているガナッシュ様に声をかけた。侍女に声をかけなかったのは、二人とも何となく素っ気なくて、別館にいたアンナみたいで話しかけずらかったのだ。
「何でございますか、マリアナ様」
「王妃様は私のことが嫌いなのかしら?」
ガナッシュ様はいつも声をかけたら微笑んでくださるし、紳士的で話しやすい。
「好き嫌いの問題ではないと思いますよ。王妃様はそのお立場故、人をえり好みしたりはしませんから」
苦笑しながら言うガナッシュ様の言葉に私は納得がいかなかった。
「でも、いつもお姉様と比べてばかり。王妃様はお姉様の方が良かったのかしら」
「王妃様はどちらがいいとは言っていませんでしたよ。お疑いなら、直接確認してはどうですか?」
確かに王妃様はどっちでもいいと言っていた。
「別に疑ってはいないわ。お姉様はとても優秀だった?王妃様の期待に応えられていた?」
長身のガナッシュ様を見上げると、ガナッシュ様は困ったように笑みを浮かべる。
「申し訳ありません、私はエマ様とはお会いしたことがありませんでしたので。そもそも、エマ様には護衛騎士がついてはいませんでした」
「どうして?」
私にはついて、お姉様にはつかない理由が分からない。不思議に思っているとガナッシュ様はくすりと笑って「とても優秀な方がついておられましたから」と言った。お姉様についている騎士はジルだけだ。でも彼は元は奴隷と言っていた。王宮に入れるものなんだろうか?
私の疑問が顔に出ていたのか、ガナッシュ様が私が聞く前に答えてくれた。
「優秀な人材であれば、平民だろうが、元奴隷だろうが雇えますよ。下手すれば甘やかされて育った貴族よりも優秀ですし。それに公爵家で雇っているので身元もはっきりしていますし。エマ様は余裕を持って王妃教育に入られていたので、あなたのように王宮に泊り込みではなかったですし。それに、エマ様よりもあなたの方が身の安全は保障できないんです」
「どうしてですか?」
お姉様もカール様の婚約者として王妃教育を受けていた。私もカール様の婚約者として王妃教育を受けている。私もお姉様も公爵家。条件は同じなのに。私の方が危険なの?
「生粋の公爵令嬢が殿下の婚約者になるのはまだ許せても、元平民のあなたが婚約者に収まるのは許せない。自分たちの方が相応しいと思っている人はどこでもいます。そして、最悪なことにその方たちには力があります。あなた一人、消してしまう程度の力が」
「そんなのおかしいわ。相応しいとか、他人が決めることではないでしょう。それに、消すだなんて。大げさすぎます。話し合えば分かりますよ、きっと」
私の言葉になぜかガナッシュ様は何とも言えない笑みを浮かべていた。でも、それ以上は何も言ってこない。
お姉様も、アンナもそう。シーラ様やミリー様も。みんな何か言いたそうな顔をするのに、その先は言わない。言葉を飲み込んで、何度聞いても「何でもない」ばかり。どうしてだろう?私に何か言いたいことでもあるんだろうか。
やっぱり、私じゃあ不満なのかな。
それとも私の考えすぎ?本当に何でもないのかな。
「疲れたから休むわ」
今回は授業が中断したため、休む時間ができた。王妃様が途中で退席したので課題も出ていないし、久しぶりにゆっくり休めることになった。
きっと、疲れが溜まっているからおかしな方向に話が行くんだ。王妃教育を始めて二週間。カール様には全く会えないし、家族にも会っていないからその寂しさのせいだ。せめて、お姉様だけでも来てくれないかな。
「そうだ。今度、王妃様にお願いしてみよう」
部屋に戻ってドレスのままベッドに寝転ぶ私にミリー様が眉間に皴を寄せて見ていることに気づきもせず、私は久しぶりにお姉様に会えるかもしれないことに浮かれていた。
「お姉様なら王妃教育を受けて来たわけだし、私の苦労も理解して相談相手になってくれるだろうし。それに、王妃様からだけではなく、お姉様からも王妃教育のことを教われるし、一石二鳥ね。・・・・ってなると、善は急げね」
私はがばっと起き上がる。ドレスがしわになっていたけど、別に人に会うわけじゃないから気にしない。お母様と二人、城下に住んでいた時は皴の寄った服なんて当たり前に来ていた。貴族の人は身なりばかりに気にしすぎなんだと思う。
「お姉様に手紙を書きたいの」
「直ぐにご用意します」
シーラ様が一礼して部屋を出て行く。
私はシーラ様がレターセットを持ってきてくれるまで思いを馳せる。
お姉様はいつ会いに来てくれるかしら。私がいなくて寂しがってくださっているでしょうから、きっとすぐに会いに来てくださいますわよね。
「ああ。早く、会いたいな。お姉様に」
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