不条理編5 半額に振り回される消費者
かつてアサウラ氏のライトノベル『ベン・トー』というものを読んだことがある。閉店間際のスーパーマーケットにおいて、半額弁当を巡る熾烈な戦いを繰り広げるというものである。こう紹介すると完全なギャグだが、その設定でシリアス展開も普通にやるから面白い。某漫画家サクセス漫画的に言えば「シリアスな笑い」というやつか。氏の食事シーンの描写も、ライトノベルの水準からは隔たって凝っているのでお勧めだ。もっとも私は兄がそれを読んでいるのを借りて読んでいただけの身で、最終的に話がどう落ちたかは知らないのだが。
ライトノベル業界、いやさ出版業界も不条理まみれで、『ロジック・ロック・フェスティバル』あたりの話もしたいがまあそれはさておき、このエッセイで語る不条理は食に関することのみである。そして冒頭に『ベン・トー』を出したのだから当然語るべき不条理は、半額弁当である。
まあ弁当に限らない半額商品についてなのだが。
半額。説明不要なことだが、商品の廃棄ロスを可能な限り減らすためのスーパーの取り組みのひとつである。そしてなぜか大量廃棄の出るコンビニでは行えない魔の所業である。
大抵は10%、20%と割引率を刻んでいく。私がよく通うスーパーでは弁当や総菜の場合、10%OFFから始まり20%、30%、そして半額となる。それ以外の商品は別の計算式があるのか、精肉類は最終割引率が20%、その他諸々は15~20%程度という感じ。別のスーパーでは8%とか13%といった中途半端な割引率を見たことがあるから、計算の手間と廃棄ロス削減との狭間でやり取りがあるのだろう。
一人暮らし前はスーパーにも一人ではいかないし、行く時間帯も精々が夕方くらいだったから気にしたことがなかったが、一人暮らしが始まり、さらに行動パターンが夜型になるにつれ、値引き商品はよく目にするようになった。
夜遅くに帰宅するとき、家に作り置きこそあれど米を炊くのも面倒くさい。そういう時に頼ることになるのが半額弁当。それが今のわたしの立ち位置である。
しかしどういうわけか、半額弁当はなかなかお目にかかれない。いや、そりゃ店側からすれば可能な限り半額は避けたいところだが、しかし同じような時間帯に訪れても、半額で売っている時もあれば10%OFFもまだという日がある。弁当は別段、それぞれで消費期限に違いがあるわけではないのに、である。
当初は半額になった弁当だけを買っていたが、その固い信条もそうした事情の前には脆く崩れ、30%OFFならいいかになり、それはすぐ20%OFFでいいやになる。そこで気づいた。
あ、習慣化されたんだなと。
つまるところ、私は夜遅くに帰宅する場合、スーパーで弁当を買うという動作が習慣になってしまっている。これは疲れているためにできるだけ家での食事の手間を省きたい、しかし外食よりは節約したいという意識の働きだが、コンビニ弁当程ではないにせよ出来合いのものは値が張る。まあうちのスーパーで満足いく弁当は298円で買えるのだが、家に作り置きがあるのにそれを買うというのはやはり節約対象、本来締めるべき行為だろう。
それを習慣化された。半額でなくともまあいいやになってしまった。完全に廃棄ロス狙いのスーパー側の思惑通りである。
と、そう書くとスーパーが悪役だが、さすがにそれは言い過ぎだろう。結局、怠けたいが節約したいという怠惰な消費者が手玉に取られているだけである。
特に私のスーパーは駅のすぐ近くだから、夜の時間は電車から降りて帰宅の途に着く大勢が半額弁当を前に大挙して押し寄せる。それをあざ笑うかのように並ぶのは20%から30%OFFの弁当。しかも数はもう多くない。店員がゆっくりと割引シールを張るが、彼らが通過した後に弁当が半額となる保証も、弁当が残る保証もない。
(私含め)できるだけ安く弁当を買おうと総菜・弁当コーナーを行き来する愚か者の群れをもし観測したいなら、閉店の二時間前くらいがおススメだ。コーナーでじっと立ち止まるもの、別のコーナーとそれとなく行き来するもの、そして弁当を選ぶ際、カートで弁当の前を塞ぎ他の弁当を取られないようにしつつ、自分の前の弁当を堂々と検分する猛者の姿も拝めるだろう。スラムの一角並みの荒んだ光景がここにはある。
自分がそうなりたくないならば作り置きをして、可能な限り家での食事の準備の手間を省くか、いっそチェーンの弁当屋に駆け込むしかなかろう。まあ、そうすると外食と大差ない場合が多いが。
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