戦争編2 お好み焼きのオリジン

 薄い生地に山盛りのキャベツ。鉄板で焼いた麺と卵と豚肉。仕上げはオタフクソース。広島名物のお好み焼き、一度訪れたならば、食べずに帰るは損ばかり。

 ただし忘れてはいけない。彼らの前でそのお好み焼きを「広島風」と言ってはいけないということを…………。

 言ったら最後…………。


 いや、まあ、殺されはしないのだが。

 というわけで味オンチ食道楽記、堂々の第二回はお好み焼きである。第一回できのこたけのこ戦争の両陣営に喧嘩を売ったあげく、しるこサンドという第三勢力をぶちあげて後足で砂をかけて退散したのにまだやるのかてめえ、という意見は聞かなかったこととする。

 お好み焼きにまつわる話で有名なのがまさにこれ、〈広島風〉お好み焼きである。そりゃあ、広島県民からすれば、通常のお好み焼きがまず想定されて、それと異なる〈広島風〉の存在があるがごとき表記に憤りを覚えるのは当然だろう。彼らにとってお好み焼きとは〈広島風〉と呼ばれるものこそがスタンダードだからだ。広島県に在住した経験のある私としては彼らの言い分はよく理解できるものだ。

 ここでは無用な戦争を回避するために、〈広島風〉〈関西風〉と公平性を持たせた表記で語るとしよう。

 さて〈関西風〉のお好み焼きであるが、私は基本的にこちらの方がなじみが深い。なにせ愛知県出身である。中部地方というのは関東圏と関西圏の食文化が混在するカオス空間なので、今後のエッセイで取り上げることもあるかもしれないが、少なくともお好み焼きに関しては〈関西風〉が一般的であった。

 今更説明は不要だが、〈関西風〉は小麦粉やらなんやらとキャベツを混ぜ合わせたタネを用いて焼いていく。感覚的にはホットケーキに近い。具材も、基本的に鉄板に伸ばしたタネの上に乗せることでトッピングできる。家でも店でも簡単に作れる。

 対する〈広島風〉は少々面倒だ。なにせ麺と生地、目玉焼きを焼くスペースが別々に必要なのだ。広島のお好み焼き屋が広い鉄板を有しているのは伊達ではない。それほど広いスペースが〈広島風〉には求められる。フライパンはもちろん、一般的な家庭ホットプレートでも調理に難儀するだろう。なるほど、〈関西風〉がスタンダードになるわけである。


 さて、〈関西風〉と〈広島風〉であるが、なじみ深いのは前者でも好みなのは後者である。なにせ〈広島風〉は食いでがある。そして重要なのは、基本的に〈広島風〉は店でしか食べる事ができないということだ。広島の生活に根差し、かつ自炊は不能というある種の神聖さが漂っている。

 広島に滞在した折、〈関西風〉のお好み焼きの話をしたことがある。そこで「〈関西風〉のお好み焼きは店で食べる時も自分で焼く場合が多い」と説明したとき、「それ、店で食べる意味ある?」と返されてしまった。

 …………………………ないな!

 仮に、きのこたけのこ戦争ならぬお好み焼き戦争があるとすれば、私の中で軍配は〈広島風〉に上がった。なんだよ、店まで来て自分で焼くって。馬鹿にしてらあ。

 と思ったのだが、もっと馬鹿にしている鉄板焼きがあった。もんじゃである。

 東京に出て初めてもんじゃ焼きを食べようと店に入り注文したとき、ほいとばかりに具材が入った小さいボウルだけを渡されて思った。

 てめえ馬鹿にしているな? ぼろい商売しやがって!

 まだ客自身に焼かせる〈関西風〉の方が手間のかかっていたくらいである。世の中、下には下がいるものだともんじゃ派諸氏に喧嘩を売りつつ今回はここで幕を閉じよう。

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