不条理編2 納豆嫌いそれぞれ

 日本人が嫌いな食べ物をアンケート調査すれば、その上位に食い込むであろう食べ物がある。

 納豆だ。

 思えば日本の伝統的な食であるにもかかわらず、これほど嫌いな人間の多い食べ物というのも珍しい。

 戦争編5で私はコーンが嫌いなのにコーンスープが好きという話を語った。この手の好き嫌いの話は本来「偏食編」とでも題してまとめるべきだが、なんかもう「TAKE2」とか題すれば同じお題でもいいかなという気がしているので納豆の話をする次第である。

 納豆嫌い編TAKE1の始まりである。


 コーンやトマトといった食材系に対し、この手の既に完成されているタイプの料理は、どうしようもなく嫌いと言ったら嫌いである。納豆は嫌いだけどごはんに掛けたら食べられる、というのは好きになったというより嫌いな食べ物の処理方法だろう。

 そして対処法もまた人それぞれである。


 私は小中と給食のある学校に通っていたのだが、そこで一度だけ納豆が出た。普段は「嫌いなものも残さず食べなさい」と完食指導する担任はこう言った。

「残してもいいよ」

 以来、教師は私の信頼できない職業トップスリー入りである。というか、そもそも「先生」などと呼ばれる人種が信頼できたことなど有史以来あっただろうか? 我々にそのことを思い起こさせるワンシーンである。


 そして私の話であるが、私も「嫌いなものも残さず食べなさい」と指導する立場になったことがある。年齢層の広い児童から学生までを集めての長期キャンプ企画で、私が最年長の学生として指導する立場に立ったのだ(もちろん野外活動を指導する大人は他にちゃんといる)。

 さあて今日の夕飯はなんだろなと思ったら納豆である。

 なぜ。

 キャンプの定番と言ったらカレーじゃないのか。いや、実はカレーは鍋に残るべたつきを洗うのが面倒なので、中級者以上は同じような材料でできる豚汁が鉄板だったりするのだが、そんなことはどうでもいい。

 なぜ納豆なのだ。

 種明かしをすればそのキャンプ、かなり大規模で、ために食料は配給制。その日の献立もほとんどあらかじめ決まっているようなものだったのだ。そこで納豆が配られたという次第である。

「嫌いなものも残さず食べなさい」

 私は子どもたちにそう言い続けた。そして彼らにそれを実行させ続けた。幸い、私の嫌いなものは一部の野菜に限ればキャンプに出るような代物ではないので無関係なものだと安楽として指導していた。その天罰なのか。

 私はその日、初めて納豆を食べた。

 いやな大人にはなりたくなかったから。


 今でもわたしは、このエピソードを根拠に自分の性格を「誠実」と規定して構わないと考えている。味オンチにも、嫌いな食べ物はあるのだ。

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