不条理編1 醤油ラーメン730円の悲哀
私の学校の傍にはいくつかラーメン屋がある。その一軒に入って頼んだ醤油ラーメンは730円だった。
チャーシュー一枚、メンマ数グラム、海苔一枚のトッピングでそれである。麺を中盛にしたら50円プラスで780円だった。
………………高いな。
それが第一印象である。
私の近所にはさびれたラーメン屋がある。いや、客が入っている以上さびれてはいないのだが、外観はありがちな「本当に経営してるの?」という感じの店だ。その店に入って頼んだ醤油ラーメンは420円だった。
チャーシュー抜き。メンマとネギ数グラム。海苔もあったかどうか。ナルトはあった。ライス小と合わせて600円しない夕食である。
まあまあな値段だな。
それが第一印象である。
どういうわけかラーメンは高い。いや、原価に人件費、住居費光熱費諸々を加味すればこれでも精いっぱいの値段だろうことは想像に難くない。それなのに高いという印象を受けてしまう。マクドナルドのキャンペーンメニューはセットで780円しても高いとはあまり思わないのにラーメン一杯は高いと思う。蕎麦なら盛やざるといった素うどんクラスにシンプルなものでも平然と600円近くは取る。しかしそれを高いとは感じない。どういうわけか、ラーメンだけが「高い」という印象を受ける。
いったいこれはどういうことか。
原因のひとつは学食や、前述のさびれたラーメン屋のような「安いラーメン」に我々が馴染んでいるためだろう。
さびれたラーメン屋は住居費がいらない。そして客と言えば馴染みのいつもの客。私のような新参が既にイレギュラーな存在である。馴染みの客に馴染みの味。お互いにそれで納得し、周囲に商売敵もない。手も抜きたい放題だから安く済む。ちなみに私の近所のラーメン屋、スープが「醤油だ」という感想を抱く味をしている。大抵の醤油ラーメンのスープは「醤油ラーメンのスープだな」と思うのに、あれは「醤油だ」という謎の感想を抱く味である。味オンチゆえ判然としない部分が多いので、ぜひ舌自慢にも確認してほしい。
学食に話を変えればこれはもう惨憺たるものである。どうせ客は腹が膨れれば満足するクソガキどもである。大抵は大手のチェーン店と提携していて(うちの大学はシダックスだった)、そこから大量生産された食材を分け与えられるのだから原価は安い。スープなど何種類あろうと、どうせ原液を湯で薄めるだけだろう。スープに合わせて麺を変えるなども不要。同じくたくたの麺を適当にゆがき、スープだけが異なり麺とトッピングは同じという物体が完成し日々クソガキの腹を満たすのだ。
しかし専門店はそうもいかない。立地が良ければ家賃に取られる。スープはほとんど飲まれないのにこだわりにこだわり、そのために値段が上がっていく。メニューのレパートリーを変えるということは、ラーメンの値段を吊り上げる主原因たるそのスープをさらに増やすということで、さらに麺の種類も変えるということである。実際、わたしの訪れたラーメン屋はトッピングは別として、醤油ラーメンとつけ麺の二種類で頑張っている。それでもシンプルな醤油ラーメンが730円!! 高いと思われる!!
ラーメン屋はかくも悲しい生き物なのだ。そもそもなんであの店は、学食がある大学そばに店を構えたのか。いや、意外と学校近くにはラーメン屋が多い。学食のラーメンでは満足できない何かがあるのか、味オンチにはとんと分からぬ話である。
分かるのは、少なくとも私が飲食店で儲けようとするなら候補リストからまっさきにラーメン屋は脱落するということだけだ。
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