味オンチ食道楽記

紅藍

緒言

グルメとは資産家のみに許された趣味の世界か? 否である。

グルメとは美食家のみに許された批評の世界か? 否である。

グルメとは料理家のみに許された創作の世界か? 否である。

グルメが食である限り、そして食が人に不可欠である限り、

グルメとは文字通り万人に開かれた世界である。


 ゆえにここで私は、新しいグルメエッセイを打ち立てようと考える。いや、そんなに目新しいアイデアでもないよなあとか思いつつなのは内緒だ。

 すなわち、味オンチ代表、バカ舌の生体標本の私が。

 野菜炒めを作って、半分程食べて塩コショウをふっていないことに気づく私が(結局そのまま食べた)。

「あいつ、業務用のでっかいアイスと間違えてマーガリン食べたらしいぜ」とうわさされる私が(食べてません)。

「こいつの理想の食事は光合成だからな。はやく葉緑素注入しろよ」と罵られた私が(正直それはちょっと理想だと思っている)。

 すなわちグルメなるものとは水と油――でもあれ、よっぽど静かに入れないと水と油って混ざっちゃうらしいぜと茶化したくなるくらいには図星――の私が、全方位に不遜と不敬をまき散らすグルメエッセイである。


 グルメの諸君は恐怖するがいい。店の味より「客が少なくて快適だった」が上位の評価基準になる男の批評に。

 味オンチの諸君は歓喜するがいい。君が何を書こうと、私のそれよりは真面目で正確なグルメエッセイになる。

 それでは開始しよう。グルメエッセイ界のザ・ワーストを。


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