花になる

私は萎れた花だ

今日も教室の隅で俯き、誰かの気を煩わせないように

ひっそりと枯れていく

視線を常に下に向け、机には本を置き

流れる文章は頭に入らない

早く一日が終わればいいのに

今年も来年も同じなら、早く終わりたい

太陽の光を、例えば日照りとして

肌は乾き切り、色は褪せ、砂になり散りたい

人生という土に負けてしまった私は

花の事を謡う小説を見ながら、そこに居場所はないと知っている

今日もやってくるだろうか

明日もやってくるだろうか

太陽も水もいらない

静かに枯れてしまいたい

焦土と化した家も教室も、なんて無意味な土なのだろう

そこに居座る私は、なんて愚かなのだろう

今日もやってきた

明日もやってくる

今日で何冊目の本だろう、溜まっていくのは要らない栄養分だけ

痛い、火傷をしているよう、痛い、手を捥がれているよう

ただただ静かに居たいだけなのに

何がいけなかったのだろう

太陽を望んだから? なら月になりたい

でも月になっても同じ事だ、きっと

なんにもなれない、花もやめたい、現に小説の花は死んでしまった

なら……太陽に見捨てられ、月は望まず、見上げられず

そう思っていたのに

ある日、月が現れた

夕暮れに染まる図書室の中で、手を伸ばす月

太陽が静かに沈み、月が顔を出す頃に現れた月は微笑んでいた

安心させるような言葉を言い、私に希望をくれた

魅入られる、とはこのことだ 太陽は直視できない

でも、この月なら見ていられる

誰もが寝静まる頃に現れた月は私に希望をくれた

半信半疑だったけれども月は教室での事を語ってくれる

困ったように語ってくれる

夜の帳がおりて親が子に唄を聞かせるような

落ち着いた声音で語ってくれた

私は少しだけ太陽が好きになり、窓辺が好きになり、本が好きになり

月が好きになり、そして私は作られた囲いの中で咲かせたと言われるまで

花になれていた

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