怒号に咲いた

外を見ていたら怒声が聞こえた

年老いた男の声と若者らしい男の声だ

せっかくの月見が終わってしまったと

ベランダから踵を返して部屋に戻る

窓を閉めても聞こえる両名に呆れつつ

頭から消す為にテレビをつけた

怒鳴る声は嫌いだ

相手を委縮させるのを知っていて使用する

奴らが嫌いだ、俺は嫌いだ

だから部屋では吸えない煙草に手をつける

この為の月見だったというのに

テレビの音を耳に入れても外の声は大きくなるばかり

頂点に立とうとする瞬間だったのか

静かになった

途端、叫び声が聞こえた

流石に立ち上がってベランダに急行する

同じように見ていたであろう

向かいの家のベランダにいる影

その影が叫び声の主だった

だった、そう分かったのは

俺から見える喧嘩の結末は、遠目に見て

地面に伏して赤い血を咲かせる人間が居たからだ

どちらがどちらか分からない

ただ赤い血が目に入る

横たわった身体の下から、じわじわと広がっていく

おそらく、日常にありながら非日常になった瞬間

非日常でありながら日常たりえる瞬間

せっかくの月夜でありながらも、男の身体と血を照らすのは明るい街灯の下だった

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