花と種

私は種だ

もうじき芽を出す予定の種だ

包み込んでいる土から水分を貰い

日夜、時を感じながら成長を待っている

あと少しで芽を出すだろう

一緒に植えられた隣人はどうしているだろうか

植えた人間は、別の花と言っていたが

同じ植物のよしみとして一緒に咲ければいいと

私は思っていた

芽を出した、その日

隣人は芽を出していなかった

種類が違えば芽を出す日も違うだろうと

思いつつ、私は根をめいっぱいに伸ばし

しゅるしゅると伸びていく

隣は目覚めなかったが

住人である目の前の花は

今日も元気に朝に咲いて夜に咲いて

楽しそうにしている

数日、隣は目覚めない 楽しみにしていたのに

今日も、目の前の花は歌っている

なぜ、こんなにも隣人に執着するのか分からない

なぜ、目の前の花が煩わしいと思うか分からない

結局、隣人は目覚めることがなかった

そして、目の前の花は病気だなんだと枯れた

人間が話している

芽が出なかったねえ、水のやりすぎかしら

でも隣のは咲いたんだから種が悪かったのよ

これも、なんと言ったかしら、綺麗だったのに枯れちゃって

まだ――まで咲く予定だったのに

残念ねぇ

私は今日、咲いた

最初からいなかった隣人、生を謳歌していたのに死んだ花

成長する私

私は花だから分からない

共に過ごしていただろう隣人がいなくて

他の花の為に歌っていた花が枯れたこと

最初からなかったことに落胆するべきなのに

途中から出会った花が枯れたことに落胆するべきなのに

どちらが悲しいかだなんて花だから分からない

花は分からないまま日夜、空を見上げていた

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