咲くことはできない

年に一日だけ咲く花があるという

ゆっくりと花弁を開き

ゆっくりと咲く

そしてゆっくりと花弁を閉じて

ゆっくりと眠る

一日だけの奇跡と人は言う

そこに美しさを見出して

愛好家たちがいるくらいだ

いや、愛好家がいない物事など

人間が人間を観察するぐらいだろうか

感情や行動に意味を見出す愛好家は居ても

人間そのものに、一個体に執着する『愛好家』は

いないだろう、いないはずだ、いたら恐ろしい

なぜなら、花の区切りと違い

人の生は短く長い

それこそ年に一度だけ咲く花と違い

陽に当たり、夜に咲き、朝焼けに眠り

動き出す生き物に対して四六時中見ているだなんて

ストーカーじゃあるまいし

しかし、この言葉があるならば、やはり人間が好きな人間がいるのだろう

だけれども一瞬の輝きを人が愛でるのであれば

やはり人間は人間を常に観察してはいけないのだ

一夜一夜の月が違うと感じるように

不変は人を壊す 奇跡は一度だからこそ意味を成す

人間は咲いてはならない 咲けば人間がやってくる

その咲き方が奇形であればあるほど

特殊であればあるほど

人間はやってくる 人間は人間を好きになろうとする

だから 咲いてはいけない

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