人と人と、魂の物語。

 カメラを趣味にしていた祐は、家族とのいさかいやこじれた人間関係のために、それを捨てた。大学生になってからは自堕落な日々を送っている。そんな折、病院で祐は美しい女性・渚月と出会う。ピアノをかつて愛し、今は絵を描き続けている彼女に祐は深い感銘を受ける。渚月への明確にできない感情を抱えつつも、祐は自堕落な己を変えたいともがき始める。

 人間の光と闇をとことん描く文体が、まさしく人間ドラマだと感じました。祐は自他共に堕落していると言われていますが、渚月との出会いをきっかけに変わろうとしていく。祐だけではなく、周りの人間も当たり前ですがそれぞれの人間関係を抱えていて、そこから何かに向かって足掻いています。人間というもののあり方を考えよう、変えようとすると、生死というものも無関係ではいられません。祐をとりまく環境は複雑で困難でもありますが、彼が人との出会いを通じて何を得て、どんな答えに辿り着くのか。それを見届けたい、と願わずにはいられない小説です。

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