メル・アイヴィーの《歌》は誰かの祈りだった

メル・アイヴィー
この謎めいた人物に如何なる《物語》を吹きこむのか。どのような《歌》を歌わせるのか。
これは、かんたんなお題のようで、実は非常に難しいことです。
《物語》を吹きこむことは《いのち》を宿すことに他ならず、彼女の《歌》に如何なる《願い》を込めるのかを書き綴ることは《歌》にちからを授けることだと思うからです。

この物語には、しっかりとそれらが組み込まれています。
御伽噺のような誰もが優しいせかいのなかで、それでも産まれる悲しみのこと。胸がぎゅっと締めつけられるような痛みがあって、それでも悲しみを乗り越えて未来に踏みだすことで、確かに救われるものがある。
ひとつの短編小説としての完成度は勿論のこと、この人物に命を宿すのに必要なものがすべてそろっています。

是非とも一読を。
小説に音はないけれど、きっと最後には優しい《歌》が、あなたの胸に響くはずです。

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