樹海の奥であなたは1人

 ペラッ ペラッ


 ようやくあなたは1つの世界を読み終わったようだ。


 くふふ、面白かったかな?


 私はまあ……まあ面白かったかな。


 私もその森へ行けば、自分の愛してる人、分かるかもしれないなぁ。


 でもそれすら天使が見せた幻想だったらどうしよう、ああ怖い。


 でもその怖さがこの世界に神秘性を与え、深みを与えてるのかもしれない、なんてね。


 死ぬって怖いなぁ、でも死ねないのも怖いのかなぁ?


 まあ私、死なんて経験してないからなんとも言えないけどね!!


 あっ、経験してないからみんな死ぬのに憧れるのかなぁ?


 自らそのユートピアへ転がっていっちゃう感じ?


 くすくす、バカだねぇ。


 でも分からなくもないのが、この世界が悪夢と呼ばれる所以なのかもね!!


 ところで自殺だろうが他殺だろうが、死は死だねぇ、どういう気持ちなんでしょう?


 人を殺す気持ち、人に殺される気持ち、気になるけど、分かっちゃったらもうそこでおしまいなんだろうなぁ。


 あっ、木々の隙間から光が。


 木洩れ陽ってやつだね、三日月綺麗だなあ。


 あれ、私は誰?


 そんなの誰にも分からないよ、ねぇ君は君であることを証明できる?


 できないよね、くすくす、私もできない。


 でもね、私って存在は曖昧だけど、私が残したものは確かにそこに残るんだよ。


 だからやけに人類ってやつは残したがるのさ、文章や音楽や、まあつまり生きた証ってやつを。


 周りに流されてくるくる回る方が楽かもね、でも大人数に埋もれないで、己を世界に刻むのに憧れるやつもいるのさ!!


 それが私、私はそれ。


 ところでこの森、ここは時間なんて概念がないの、だから私は流されることも逆流に巻き込まれることもない。


 妖精って年取らないでしょ?


 くすくす、あのキーホルダーなんて持ってなくても私は消えないのさ。


 でも長生きしてるおかげでたまに苦しくなる。


 そう、まるで猫のように何も考えずのんびりと暮らせたら幸せかなぁ、って。


 何も考えず、ってどんな感じ?


 ああ、ダメだ、また私考えちゃってる。


 ところでそろそろ人間たちはクリスマス?


 教えてよ、ねぇ、そこにいるあなた。


 仕方ない、またここに刻むか。


 クリスマスパーティーって憧れるんだよねぇ……楽しそうじゃない?


 まあ永遠に繰り返す気はないけど。


 ところで、幸せは人それぞれ、そう思うのよねぇ。


 なんか色々考えちゃった!!


 考えない方が楽って言ってたくせにね。


 じゃあ今呟いたこと、全部、小説という形でここに残したからじっくり読んでね、そこのあなた。


 題名からも分かるけど、樹海の奥であなたは1人、たった1人で「短編の森」を読んでたの。


 だって私は妖精だから、あなたにも見えやしない、周りにも見えやしない、だから結果1人きりということになった。


 でも文章に、形に残せば、それは目に見える存在となるの。


 だから今読み切ったあなた、私の存在に気づいてね?


 すぐそばで見守ってるから。


 ふふ、じゃあおやすみなさい、些細な短編集を読んでくれてありがとう、またね。

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短編の森 またたび @Ryuto52

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