どんでん返し
目が覚めると見覚えのない場所にいた。
「……こ、ここは?」
あたりを見てみると、どうやらテントの中らしい。テントから出てみる。
「すごい山の中だなぁ」
目の前に巨大な滝があるほどに、山の奥。見た感じそう思えた。何故自分がこんなところにいるのか、さっぱり覚えてない。覚えてない、というよりは記憶が混濁してる感じ? 何かぼんやりしているのだ……
「とりあえずテントに戻ってみよう」
何かしら手がかりがあるかも。自分が何者かは分かる、記憶喪失というわけではない。きっと一時的なものだろう、やけに頭がいたいのだ、それさえ治ればきっと記憶も戻る。ここ何時間の記憶がない、携帯もないしとりあえずは位置を把握しないと、テント内に何かしら手がかりがあると信じて戻ってきた。
「……これは?」
あったのはロープ、何かの薬品、スコップ……これくらいか?
「携帯……ないな。連絡を取れるものはないらしい。どうしようか」
少し思考。ロープ、スコップ、こんなもの何に使うのだ? むむっ、分からん。
「ん? 手帳か?」
手帳らしきものを発見。拾ってめくってみる。
『死にたい、耐えられない』
暗い言葉、これは自分の言葉か? 字体的には……似てないような、似てるような。頭がうまく働かない、自分の文字の雰囲気が思い出せない。だがもしも。
「だがもしも、もしも! これが自分の言葉だったら……」
私は死のうとしてたのか、自殺ということ? つまりあのロープは、首吊り用?
「そ、そんな」
ショックだった。つい最近の記憶は思い出せないが、別に覚えてる限りではこれといって病んだ記憶はなかった。自分がそこまで追い詰められていたなんて……
「外に出よう……」
外の空気を吸わなければ。テントから出た。
「良い空気だ……なるほどな、死のうと思ったならこんな山奥に来るのも納得できる」
でも分からないことが一つや二つ。まず何故自分の記憶はこんなにも曖昧なのだ? 死のうとしてることすら忘れるなんて! それに、ロープで死ぬならあの薬品とスコップはなんだ? 分からない……
「ん?」
ふと、テントの裏に何かがあるのが見えた。一体何だろうか……って
「うわっっっ!!」
死体だった。近づいて見てみると、首にロープの後。どうやらロープで絞殺されたらしい。
私は気づいた。
「そうか……私は人を殺したのか」
説明がつく。おそらくあの薬品は眠らせる何か、あれで相手を眠らし、ロープで殺し、あのスコップで埋めようとしてたのだ、この山奥に! その人間のポケットを漁ってみた。また別のメモ帳が……
『借金が返せない。このままじゃ殺されてしまう。ああ、死にたい。いや死にたくはないが、死にたいくらいに追い詰められた気持ちだ』
先ほどのメモ帳と、字体は一緒だった。正真正銘あのメモ帳の持ち主だ、この死体は。
「借金を返せない相手にムカついて私はこの人を殺してしまったのか……薬で眠らせロープで殺して。そしてこの山奥に埋めに来た」
「ご名答。ただ、肝心なところで間違えてるよ」
「えっ」
急に息ができなくなった。首をロープで締められているようだ。
「ぐぅ、ふ、ぐっっ」
「……お前は無関係さ、こいつが借金をした相手は俺。で、こいつを殺してここに埋めようとしてるのも俺さ。そしてお前はそれを偶然見てしまった悲しい目撃者。とりあえず薬で眠らせておいたが、まさか帰ってきたら目を覚ましてるとは」
「ぐ、っ、ふ、た、たす、け」
「……でも運良く、薬の効果で一時的に記憶が曖昧になってくれたらしく助かった。全て覚えていたらなかなかに厄介だったからな」
「お、おねが」
「……せっかく自分が殺人をしたと勘違いしてくれてるなら、そのまま殺人者でいてくれ。そして罪を償うためこいつと一緒にこの山で眠りな、おやすみ、じゃあな」
「……」
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