クリスマスの少し前に

 ふと目を開くと些細な夢が見えた。それは愛しい君が生きてた頃の夢だった。


「……クリスマス、食べたいものとかある?」


 テーブルでのとある日の夕食。微笑みながら君は僕に聞いてきた。


「別に、まあケーキは買うけど、あとは君の好きなものでいいよ。作ってくれるのは君だし」


「私は特に浮かばないからさ、あなたが選んでよ。お願い!」


 君のそのお願いのときの顔は、苦手なんだ。見惚れてしまいつい了承してしまう。


「……じゃあパスタとかどう?」


「いいね、それ!」


 君は微笑む。今は見ることのできない、いや、正式には今夢に浸ってるから見ることはできるのだが、それでも未来では見ることのできない、その微笑みに僕は心から癒されていた。


「じゃあ頑張って作るね!」


「……うん、楽しみにしておくよ」


 彼女と僕は、付き合って約三年を迎えた。僕も彼女も働いている。僕はサラリーマン。彼女はOLだ。上司の愚痴ばかり話す君だけど、どんな君も好きになってしまうから怖い。


「そういえば」


「ん?」


「……あのさ、そろそろ同居しない?」


「……ああ、その話ね」


 先ほどのクリスマスに料理を作るどうこうの話も、二人同居してるわけじゃなく、彼女の住んでいるマンションに僕が行きクリスマスパーティーを二人でしようという話だ。


「もう、三年経つじゃん。そろそろ良いと思うけど?」


「……まあ、そうだな」


 僕だって同居したい、さらに欲を言えば結婚したいとまで思ってる。しかし、必ず同居すればお互いの悪いところは見えてしまう、とよく言われるものだ。僕は君の悪いところなんて見つけられない、たとえ見つけたとしたって乗り越えられる気がするが、逆が怖いのだ。君に見限られるのが。こんな弱虫で自分勝手な僕を知られて欲しくないのだ。


「……同居したらさ」


「えっ」


 僕の思考は彼女の一言で一旦ストップした。


「同居したらさ、お互いの悪いところも知っちゃうじゃない? 多分」


「まあ、そうだな」


「でも、お互いの良いところももっと知れる気がしない?」


「えっ」


 正直、目から鱗だった。


「私のダメなところ、あなたのダメなところ、お互いの悪いところを認め合って、私の良いところ、あなたの良いところ、お互いの良いところを理解し合って……それはそれで素敵じゃない?」


「……」


「どう?」


「……そうだな、同居しようか」


「うん!!」


 ああ、なんて綺麗な笑顔なんだろう。この笑顔のために僕は生きているんだ。


「とりあえず明日、一緒に飲みに行かないか? 居酒屋に」


「えっ、なんで?」


「酒を飲みながらお喋りしたら、色々気持ちが整理できると思って」


「……うん、そうだね、そうしよう!!」


 その後もくだらない話などして、その部屋に、二人の笑い声が響いたのであった。そして、その日は綺麗な三日月の前日だった。






 * *


「夢から覚めたかい?」


「……ああ、覚めたよ、神様。現実のような夢から覚めてしまった」


「そして今お前は夢のような現実にいる。どうする? 無理やり寝て、夢へ逃げるくらい病んでるのなら、もう諦めるかい、ループ?」


「いいや、僕は彼女に会いたいんだ。ループをやめる気は無い」


「そうか……では時を戻すぞ? 彼女を救えることを心から願う」


「なら神様にどうにかして欲しいもんだけど」


 1つ嫌味を言ってまた僕は、瞬きをした。目を開けると隣には……やっぱり君だった。気のせいかいつもより瞳が暗いようだったが、君だった……

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