第10話 慈愛と守護の神物語

 私は今日も神界と人間界を行き来しつつ信者たちの信仰を受けながら生活している。


「我が神。子供の一人が危ない男に連れ去られそうですよ!」

「ふぇっ!すぐにしばかなきゃ!行くよハスデヤ!」

「はいっ!」


 隣国の兵士たちに襲われたアインスの町は幸い、また隣国に襲われる…ということもなく無事だ。

 ただ怒っていたから姿隠すとか忘れていたせいで町の人々に私を見られたのは失敗だったかな。

 こんな子供みたいな姿じゃ信仰してもらえないかもしれない、と思っていたんだけど……むしろその逆のことが起こったの。

 あの後、アインスの町の人すべてが私の熱心な信者になってくれた。

 私はすごく驚いた。

 だって私は隣国の兵士たちを片づけただけなんだもん。

 どちらかというと怖がりそうなんだけどな。

 ハスデヤにそのことを聞いてみると、


「我が神が必死に守ったから彼らは感謝しているんですよ」


 だそうだ。まあ信者のみんなから感謝の気持ちは伝わってくるから多分そうなのかな?


 人間界で無事誘拐されそうになっていた子供を助けた私は「ふうっ」と体を休めていると頭の中にヴァルドゥールの声が響き渡る。


『おいアーヴァロン!もう会議始まるぞ!どうせまた人間界にいるんだろ?早めに来いよー』


 という旨を伝えてくれる。最近はヴァルドゥールとも仲良くなり彼も私の世話を結構焼いてくれている。私は優しい彼のことが気に入っている。


「ありがとーヴァルドゥール!だーい好き!」

『…んなぁ!?…』


 何かヴァルドゥールの驚いたような声が聞こえた気がするがとりあえず会議に間に合うように子供を家へと返すために手を握って連れていく。


「お姉ちゃん!助けてくれてありがとう!」

「いいのいいの。でも知らない人についていっちゃだめだよ~」

「うん!わかった!これから気を付けるね!」


 そんな会話をしている私と子供の後ろに男を縄で縛ったハスデヤが付いてくる。


 うん。今日もこの町の平和は私が守るよ!



 ―――神界 上位神の間


 現在ここにはアーヴァロン以外の上位神が揃っているもうすぐ会議が始まる……のだが。

「アーヴァロンが遅刻しそうだから」と言って連絡していたヴァルドゥールが固まり蛸のように赤くなっている様を見て今日も神達は雑談をする。


「あらま。まーた固まっちゃったよヴァルドゥール」

「最近頻度が高いですねぇ…微笑ましいです」

「うーん僕としては応援したいけど……僕も恋愛経験なんて皆無だしねぇ」

「ヴァルドゥールが不器用」

「それもあるけど…僕はアーヴァロンが『大好き』とかそういう単語を使うせいだと思うんだけどなぁ」

「ふふっ…あの子は正直ですからね。案外今告白すれば初の上位神のカップルが誕生するかもしれませんよ?」

「それは……いじりがいがありそうね」

「ヘクセンチア・……君ってやつは…」

「アーヴァロンはかわいい妹みたいな感じだから大丈夫!いじるのはヴァルドゥールだけだから!」

「……そういう問題ではないと思うんだが…」


 そんなこんなしているとアーヴァロンが帰ってくる。


「お待たせ―」


 するとそれに反応してヴァルドゥールの意識が戻ってくる。


「……ハッ!……ようやく戻ってきたか。とっとと会議始めるぞ!」

「うん」


 そんな二人を見ながら他の神達はニヨニヨした笑みを浮かべ席に着く。

 最近ではよくある光景だ。


 少しして神達の顔が真剣なものになる。

 そして威厳のあるイヴァルティアの声で会議が始まる。


「それでは……世界を調整しましょう」


 そうして今日も神達は世界を整え統べていく。

 この世界を守るものとして。





 ―――人間界 アインスの町


 今日も人々は生活していく。

 商売をする者。勉強をする者。友人と遊ぶ者。建物を建てる者。

 門を見張る者。母親に抱かれる者。道を案内する者。

 武器の手入れをする者。酒を飲み交わす者。恋人に結婚を申し込む者。

 孤児たちの世話をする者。屋根の上で昼寝する者。


 沢山の様々な人間たちがこの町で暮らし各々のやりたいこと、

 やるべきことをして生きている。

 だが個々の人生を生きる彼らだが、あることだけは同じように毎日行っていた。それは…


 ゴーンッゴーンッゴーンッゴーンッ!


 大きな鐘の音が町の中に響き渡る。

 その音を聞いた町の住民たちは自分のやっていたことの手を止めて町の中心に向かう。


 そこには像があった。小さくも美しく背中から8つの羽を広げ瞳を閉じている女神……アーヴァロンの像が。


 この像は神殿にあるものとは別に町の住民たちがアーヴァロンへの感謝の気持ちとして作った像だ。

 町中の住民たちはその像の周りに集まり頭を垂れて祈りを捧げる。

 ここに居る者たちは皆アーヴァロンの声を聞き、その姿を見て心から信仰している。


 なぜなら彼らは知っている。


 いつも神は見守ってくれていることを


 自分たちのことをいつも守ってくれていることを


 彼らが祈りを捧げる像の台座には文字が刻まれている。

 信仰せし彼らの神の名が。




 命護りし優しき神 

             

        愛しき守りしアーヴァロン  

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愛しき守りしアーヴァロン 星光 電雷 @Stern2943

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