第4話 始まりと運命のアヴェマリア

 皆さんこんにちわ。

 私はアーヴァロン。この世界で1番えらい神様の一人みたいです。

 そんな私は神として何をしているか。ふふふ……それはね。

 ……特に何もしてないんだよねーこれが。


 私はハスデヤの膝枕に頭をのせながらくつろいでいる。

 やることはまだない。

 だって信者がいないから地上に干渉すら出来ないんだもの。

 神様も全能じゃないんだね。なったら分かった。使えるのは自分の持っている力が大体。自分の領分以外のことは物凄くやりづらい。だから私にできることもない。

 一応イヴァルティアが信者に頼んで一つの町に私の石像をたてはしたらしい。が、無名の神に祈る人なんてそりゃいないよね。

 退屈なのでハスデヤに話しかける。


「やることないー」

「信仰は簡単には集まらないですから気長に待ちましょう」

「むー…ハスデヤは暇じゃないのぉ?」

「わ、私はアーヴァロン様と一緒にいられればそれで…」


 ハスデヤがテレテレしながら嬉しいことを言ってくれる。

 嬉しくてハスデヤに抱き着くとハスデヤが真っ赤になる。


「えへへ……ありがとね。ハスデヤ」

「あう…あう…」


 うろたえているハスデヤを少し眺めているとき突然私に誰かの思いが伝わってくる。私はハスデヤから離れその意識を読み取る。


『新しき神……どうか私に慈悲を』


 その意識を感じたとき私の中に暖かい何かが生まれる。

 感覚でわかる。これは……祈っている人の信仰の心だ。

 ということは…。


「……やったぁ!ハスデヤ!初めての信者が出来たよ!」

「えっ!ほ、本当ですか!おめでとうございます」

「うん。ありがと。……どうやら優しい人みたいだね。病気で死んじゃいそうなのに孤児院の子供たちの心配をしてるし」

「人には治せない病気はたくさんありますからね。どうしようもなく神頼みをしているんでしょう」


 なるほど。それで無名の神の私にも祈ってくれてるんだ。

 ……だったら力になりたいな。初めての私の信者だもの…。

 ……そうだ!


「……うん。決めた!ハスデヤ。ちょっとね」

「……はい?降りてくるって……ま、まさか…」

「行ってきまーす」

「あ、アーヴァロン様!?」


 驚くハスデヤの声を背に私は、

          私の初めての信者のもとに降臨する。







 ――――人間界 商業の町アインス


 ここは商業の町アインス。国の端にある特徴や特産品などのないごく普通の町。この街の中にある安寧の女神イヴァルティアを祀った神殿。その神殿に毎日通うシスター服の女性がいた。

 名前はアヴェマリア・セラフィス。彼女は今日も日課の神へのお祈りをしに神殿に訪れる。

 理由は病。それも治療法のない不治の病だった。医者にも治せないといわれもはや手の施しようもない。シスター服でわかりづらいが彼女は病に侵され少しづつ痩せ細っていっている。もうあまり長くはないだろう。

 だが彼女は治すことをあきらめず最後の手段である神頼みをしている。

 それには理由があった。彼女はこの街にある孤児院の管理者だった。

 彼女が死んでしまえば孤児院にいる子供たちは路頭に迷う羽目になる。

 だからこそ彼女は生きることを諦めるわけにはいかなかった。


 そうして彼女は今日も安寧の神の石像に祈りをささげる。

 たとえ祈ったところで病が治ることは無いとわかっていても。


 祈り終わった彼女に神殿のシスターが話しかける。


「……アヴェマリア、調子はどうですか」

「これは…ご無沙汰しておりますシスター。……最近はだんだん体に力が入らなくなってきていますね…。もう……長くはないのでしょう…」

「……そうですか。ですが諦めないでください。信じていれば…神はきっとあなたを救ってくれることでしょう」

「はい。もちろんです。……私はまだ…死ねませんから…」


 そう言って顔をあげた彼女に見慣れない扉が目に入る。以前はあそこに大きな扉はなかったはずとアヴェマリアは考える。そしてシスターに問う。


「あの…シスター。あの扉は?」

「…ああ、あれは新しく生まれた神様のお部屋です」

「新しい神?」

「はい。我が神、イヴァルティア様が神託で『この世界を統べる上位神に新たな神が生まれた。彼女の石像を作ってほしい』という旨をお伝えになられたのであそこに新たな神のお部屋を設けたのです。……そういえば。かの神は失われていた「慈愛」の神とのことです。かの神にもお祈りをしていってはいかがですか?」


 アヴェマリアは思案する。慈愛の神とは古き昔、人々より信仰され大きな力を持っていた神のことだ。その神は滅び,その後慈愛の神は生まれていなかったという話だ。だがその力を持った新たな神なら自分の病も治せるのでは、と。そう考えた彼女はシスターに言う。


「そうですね。そうしてみます」


 そういうと彼女は大きな扉を開きその奥の石像に近寄る。その石像は8つの大きな翼が生えた美しい少女の姿をしていた。その石像の前で片膝をつきアヴェマリアは神に祈る。


 神よ、どうか……あの子たちのために…もう少しだけ生きる力を


 そう祈っていたアヴェマリアの視界に白い羽が落ちてくる。

 それに気づいたアヴェマリアは顔をあげる。

 そこには石像の上に乗っている少女がいた。

 その姿に彼女は驚く。

 少女の背中にはがあった。

 少女の瞳はの人間にはありえない色をしていた。

 何より少女の顔は少女の乗っている石像とだった。

 驚いて固まっている彼女に少女、アーヴァロンが石像から降りて声をかける。


「こんにちわっ!あなたがに祈ってた人だよね?」


 驚きながらも返事をしないわけにはいかずアヴェマリアは答える。


「は、はい。そうです。あの…あなた様はもしや…?」

「私は慈愛と守護の神、アーヴァロン。推察の通りさっきあなたが祈ってた神だよ」


 驚きながら彼女は思わず頭を下げる。人前に神が現れることなど滅多になくこの反応は当然だった。


「アーヴァロン様…偉大なる神の名も知らぬ愚かな私をどうかお許しください!」


 するとアーヴァロンは頭に?を浮かべながら答える。


「ふぇ?いいよ、そんなのべつに。それより…そのまま頭を下げててもらっててもいい?」

「畏まりました」


 そうして頭を下げているアヴェマリアにアーヴァロンがふれ神言を紡ぎ神の力を発動する。


「『慈愛』の御名のもとに我が力を示せ。終焉求めぬ彼女に今希望を宿さん、【慈愛再誕リジェネレイト】」


 その瞬間、銀色の輝きがアヴェマリアを包み込む。

 そして光は収まっていき完全に光が消えるとアーヴァロンが手を引く。

 そしてアーヴァロンが言う。


「はい。これであなたの病気は治ったよ」

「えっ?」


 そう言われた彼女は自分の体を確かめ弱り果てていた体が活力に満ちていることに気づくのにそんなに時間はかからなかった。自分が病で死にゆく運命から逃れられたことにも。

 彼女は泣き崩れる。

 諦めかけていた未来を手に入れられたことが嬉しくて。

 そしてまだ孤児院の子供たちの世話ができることが嬉しくて。

 そんな彼女に微笑みながらアーヴァロンが声をかける。


「よかったね」

「あり…がとう…ございます…」


 その後、彼女は泣き止んだ後にアーヴァロンに問いかける。


「神よ。私をお救いいただきありがとうございます。ですか…なぜ私を救っていただけたのでしょうか?」

「んー?なんで?なんでかぁ……そうだなー…あなたが私の最初の信者だからかな」

「……たったそれだけの理由で?」

「んー半分はそんな感じ。あとはあなたが優しい人だったからかな」

「私が?」

「うん。もうすぐ死ぬってわかってても、あなたは孤児院の子供たちのことを心配してたから、かな。ねぇ、アヴェマリア…頼みたいことがあるんだけど」

「神よ。なんでもお申し付けください」

「うん。じゃああなた、私の御使いにならない?」 

「み、御使い!?」


 その言葉にアヴェマリアに驚く。御使いとは神に認められしもの。神の代行者である。


「うん。私は全ての人々に幸せに笑顔で日々を過ごしてほしいの。だからあなたに私の力の欠片を預けて私の代わりに怪我をした人たちを助けてほしいんだ。お願いできる?」

「は、はい!私でよければその役目を引き受けさせていただきたく思います!」

「そっか。ありがと。……それじゃ手を出して」

「は、はい」


 差し出された彼女の手にアーヴァロン触れる。すると手の甲が少し光った後、彼女の手の甲には慈愛の紋章が浮かぶ。


「うん。契約完了。それじゃ用が済んだし私は帰るね。これからよろしくね、マリア」

「は、はい!よろしくお願いします!アーヴァロン様!」


 返事を聞いた後にアーヴァロンはその場から消える。

 その場には神に感謝し頭を下げ続けているアヴェマリアだけが残った。





 ―――――神界 アーヴァロンの空間


 私はやることをやって帰ってきた。

 うんうん。マリアも喜んでたしよかったよかった。

 そう。安心しつつ目の前にいるハスデヤに言う。


「ただいま!ハスデヤ」

「おかえりなさいアーヴァロン様」

「御使いもお願いしてきたしこれで問題ないかな。信者ふえるといいなぁ」


 そんなことを言っている私にハスデヤが心配そうに近づいてくる。


「大丈夫ですか?アーヴァロン様」

「大丈夫。だいじょ…あれ?」


 その時私に異変が起こる。物凄く眠い。


「なんか…眠くなってきた…」


 そんな私の体を抱きとめてハスデヤが言う。


「やっぱり…負担が大きかったんですね。降臨も御使いの儀も本来、信者を沢山得てその力を借りて行うものなので…力を使いすぎたんですね」

「そ…な…んだ…」


 私は意識を保てず目を閉じる。意識が途絶える際にハスデヤの声が聞こえる。


「我が神。初仕事、お疲れさまでした。ゆっくり休んでくださいね」



    その言葉を聞きながら……私は意識を手放した。

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