愛しき守りしアーヴァロン

星光 電雷

第1話 終わって始まる物語

「愛川理恵」


 彼女は普通に中学生3年生として、平和な日々を送っていた。

 平和で何事もない日々。友達と笑いながら将来のため勉強しつつ過ぎていく日常。

 彼女はそんな幸せな日々を送っていた。

 そしてある日の学校の帰り道。

 彼女は鼻歌を歌いながら家に帰っている最中、手に持っていたスマホにメールがくる。急に来たメールに彼女は驚きスマホを落としてしまった。

 そして…スマホを拾おうとした彼女は見てしまう。道路に落ちた本…そしてそれを拾おうとする少女とその向こうからくるトラックを。

 トラックにブレーキを踏む様子はない。

 子供も気づいている様子はない。

 最悪の状況の中、彼女は…迷わなかった。

すぐに道路に飛び出した彼女は子供を抱きしめる。

 そして……

 減速することもなく直進してきたトラックに轢かれて彼女は……その生涯を終えた。






 白い綺麗な部屋の中で彼女は目を覚ます。

 見たことのない装飾の施された豪華な部屋。その中心にあるテーブルの横の椅子に座った状態の彼女は困惑する。


「……あれ?私…どうしてこんなところに?」


 目を覚ました彼女は思わず疑問を口にする。その問いに女性が答える。


「ここは……わかりやすくいえばあの世です。あなたは死んだんですよ」

「あの世?………そっかー。やっぱりあれは夢じゃなかったか……」


 もしかしたらあれは夢では?……と考えていた彼女はがっかりする。


「はい。あなたは死んだんです。トラックに轢かれて」

「そっか…」


 彼女は少し悲しそうにした後、はっ!とした表情になり、


「…あの子は?あの子はどうなったの!私がかばった子は?」


 その問いに女性は笑顔で答える。


「安心してください。あなたが助けた子供は大きな怪我もなく無事で、大きくなって立派な科学者になっています」

「……そっかー……よかった…」


 彼女は心の底から安心した表情をする。自分が死んだことよりもそっちのほうが大事だったようだ。


「……じゃあ思い残すことは無いかな……それで私はどうなるの?」

「はい。ここはあなたがいた世界とは別の世界です。あなたは魂を洗い流されてまっさらな状態でこの世界の人間として生まれていただきます。よろしいですか?」

「はい。もう特に悔いとかもないですから」

「そうですか。ではあなたが次のよき人生を送れることを……」


 その言葉の後に彼女は魔法陣に包まれて消えていく。新しい人間として生まれ変わるために。


 次も幸せな人生でありますように……


 そう願いながら彼女の意識は途切れた。


 ――しかしこのとき彼女は意識がないからこそ気づかなかった。自分に起きたイレギュラーに。








 彼女の転生を務めていた神は異変に気付く。人間界に移り新たな人の子として再構築されるはずの彼女の魂が彼女の中にある何かに引っ張られて変化しようとしていることに。


「こ、これは…いったい?」


 まばゆい光が部屋を包む。そして光が収まりそこにいたのは……

 8枚の翼の生えた少女だった。髪の色は美しい銀色変わっているがその容姿はまぎれもなく先ほど転生させようとした愛川理恵そのものだった。だが先ほどまでとは大きく違うところが1つあった。それは神の力。そう今の彼女はまぎれもなく神そのものだった。


「……上位神様に報告しなくては……」


 そういうと眠っている新しい神を抱き上げた神はその場から消える。








 ――私は目が覚めるとベッドの上で寝ていた。

 長い時間寝ていたのか体がだるい。とりあえず伸びをしておく。


「ん~……」


 ん。気持ちいい少しだけ体もすっきりした気がする。

 そうしていると隣から優しそうな女性の声が聞こえる。


「目が覚めましたか?気分はどうですか?」


 私が声のほうに向くとそこには綺麗なお姉さんがいた。

 綺麗な白いドレスのような服を着ており、煌く金髪、目は少したれ目で青い瞳が見え優しそうな印象を受ける。私はそのお姉さんに話しかける。


「あの、あなたは…?」

「ああ、すいません。突然の状況で戸惑っておいでですよね。私はイヴァルティア。「安寧」の神格を持っている神です」

「……神様?それに安寧って……あれ?」


 知らない単語を聞き返そうとしたその時、自分自身に違和感を感じる。知らないはずの単語なのになぜか理解している。それだけじゃない。自分の中にこの世界のこと、この世界の人の情報、世界の仕組みなどの本来知らないはずの知識があることを感じる。


「なに…これ…」


 そういいながら頭を押さえる。自分の変化に戸惑っているとイヴァルティアさんが私を抱きしめる。


「……落ち着いて。一度にその情報を読み取ろうとしてはいけません。ゆっくりとあなたに馴染んでいきますから…」

「………」


 神様に言われたとおりいったん考えていたことを忘れる。すると少し頭が楽になった。


「ありがとうございます。……あの、私はまだ転生しないんですか?」


 そう。私は自分のことをまだ覚えている。転生したら記憶は消えてるはずだからまだ転生していない。そうおもい神様に質問する。そして予想とは違う答えが返ってきくる。


「すいません。あなたの転生は……失敗してしまったんです…」

「えっ…?」


 失敗?じゃあ私は今…どうなってるの?


 そう考えていると神様が私の今の状況をを教えてくれた。


 転生させるために私の魂を一度分解して新しい魂に変えようとしたその時に問題が発生した。私の中にあった神の力、「神格」が影響して私は神様になってしまったらしい。しかもこの世界では上位の神にあたる存在になってしまったとのこと。この世界に6人しかいない上位神の1柱としてこの世界に生きる人々を管理する役目があることを教えてもらった。


「通常の上位神は神格を1つ宿していますが……あなたの神格は「慈愛」と「守護」の2つという非常に珍しい例です。おそらく何らかの理由でもう一つの神格があなたに宿ったのでしょう。…なんにせよ、これからあなたは私と同じ上位神です。共にこの世界の人々を導く神として頑張りましょう」


 そういったイヴァルティアさんが笑顔で握手を求めてくる。


 私は……突然こんなことになって…いきなり神様だとか言われて…まだ何をすればいいかわからないけど……


「……よろしく!イヴァルティアさん。まだいろいろわからないことがあると思うから教えてほしいかな」


 そういって私は彼女の手をしっかりと握る。すると嬉しそうにイヴァルティアさんが嬉しそうに言う。


「ふふっ…ええ、私にわかることならお教えしますね。あと同じ位の神ですし呼び捨てで構いませんよ。……それで…あなたの新しい名前を教えていただいけませんか?」


 その言葉を聞いて少し目を閉じてこの世界から自分の情報、名前を引き出す。


「私の名前はアーヴァロン!慈愛と守護の神、アーヴァロンだよっ!よろしく、イヴァルティア」

「いい名前ですね。よろしくお願いしますねアーヴァロン」


 自己紹介を終えた私は彼女にこれからのことを聞く。


「それでイヴァルティア……とりあえずどうすればいいの?」

「そうですね。まず他の上位神たちにあなたを紹介しましょう。立ち上がれますか?」

「うん。だいじょぶ」


 私は差し出されたイヴァルティアの手を握って立ち上がる。


 ……うん。問題ないね。


 自分の体に問題がないことを確認してイヴァルティアに問題がないことを告げる。


「では…行きましょうか」


 そうして彼女とともにこの空間から転移する。

 私と同じ神様たちに会いに行くために。

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