第6話 目覚めた神 再降臨

 ううん…いま何時だろ?

 手探りで私は時計を探す。

 するとプニッとしたものが背中に当たっていることに気づく。

 何かと思い布団の中で回転して後ろを見るとハスデヤがいた。

 どうやら添い寝してくれていたようだ。

 幸せそうに寝ているハスデヤを見ていると私もなんだが眠くなってくる。

 もう少しだけ一緒に寝ていよう。そう思った私はハスデヤに抱き着いて二度寝する。ハスデヤ抱き枕はとても気持ちがよくすぐに寝てしまう。


 ――少し後

「ひゃわぁぁぁぁぁ」

「ふぇっ!」


 ハスデヤの叫び声に驚き私は一気に覚醒する。

 ちなみにまだハスデヤに抱き着いたままだ。彼女は顔を真っ赤にして寝た姿勢のままアワアワしていた。


「……ふぁ…おはよぉ…ハスデヤ…」

「お、おはようごじゃいましゅ」

「…どうかしたの?」

「な、なぜ我が神が私に抱き着いているんですかぁ!」

「それはもちろん…ハスデヤが気持いいからだよ…えへへ~ぷにぷに~」

「あう…あう…」


 しばらく私は目が覚めるまでイチャイチャしてました。


 ―――しばらくして


 私たちはベッドから起き上がる。


「じゃあ改めて…おはよハスデヤ」

「はい。我が神おはようございます」

「なんかずいぶん寝てたのかな?体が鈍ってるよ」

「28日お眠りになってましたから」

「ええっ!?そんなに?」

「それだけお力をお使いになりましたから…普通なら年単位の場合もあるのでさすがはアーヴァロン様ですね」

「…そんなに眠ったりするんだ。……うーん、降臨は抑えたほうがいいかなぁ」

「それに関してはもう大丈夫だと思いますよ」

「なんで?」

「今やアーヴァロン様の信者はたくさんいますから。世界の情報を探ってみたらわかると思います」

「んーと…うわぁ…すごい増えてるよ。これ全部?」

「おそらくアインスの町の3分の一はアーヴァロン様を信仰していますね。これだけ信者がいれば降臨してもお力を消費したりはしないでしょう」

「そっか。……じゃあ降臨し放題か…」

「ひ、控えめにしてくださいね……」


 人間界に私に祈っている人たちがたくさんいるのを感じる。

 マリアが頑張ってくれたんだなぁ。

 そう考えているとちょうどマリアの祈りが届く。どうやら私にどうすればいいか聞きたい様子だ。よし。いこう。


「よし。呼ばれてるしいくよハスデヤ」

「はい?どこへです?」

「人間界」

「えっ!?」


 驚いているハスデヤの腕に抱き着きながら私はマリアのもとに降臨する。頑張ってる人は労わなきゃね!




 ――――アインスの町 アーヴァロンの石像前


 ここはイヴァルティアの神殿中にあるアーヴァロンの石像の部屋だ。

 以前は狭い1部屋に置いてあったが信者が急に増えたため急遽部屋をもっと広い場所に移動させ前よりも広く立派な場所に石像が置かれた。

 そんな部屋の中でアーヴァロンの御使いであるマリアと、彼女とともにアーヴァロン教ともいうべき組織を立ち上げた信者たち2人がともにアーヴァロンの石像に祈りを捧げている。


「我らが神アーヴァロン様、今日も無事にこの世界で生きていられることに感謝いたします」


 3人は深々と頭を下げ祈る。それはアーヴァロンへの信仰の深さを表している。だがいつもと違い今日は彼らは神に問わねばならぬことがあるため恐れ多いという思いから余計に頭を下げている。


 その内容はマリアの活動でもらったお金をどうすればいいか。

 マリアはいつも見返りなど求めずに無償で怪我の治療などをしていた。

 しかし奇跡の力で怪我を直してもらった者たちは感謝の気持ちとしてお金を寄付してきた。これにマリア達が困った。

 神への感謝の気持ちとして渡された以上返すわけにもいかない。

 しかしこれは自分たちではなく神に捧げられているお金のため使うわけにもいかない。仕方ないのでアーヴァロンの神殿を建てるという方向で決めたが、神になにも聞かずに勝手をするわけにはいかない。だから今、マリア達は「もしかしたら返事をしてくれるかもしれない」という淡い希望でお祈りをしている。

 普通、よほどのことがなければ神は声すら人には聞かせない。

 だからこそ前にアーヴァロンが直々に降臨したときにマリアは感動していたのだ。


「それでは神よ。いつかお返事が聞けること願います。それでは…」


 自分たちの現状を伝えマリア達3人が部屋から出ていこうとしたその時、

 部屋の奥からかすかに何かが動いた音がする。それに気づいたマリアは振り向き、そして絶句する。

 そこには自分の信仰する八翼の神がもう一人の翼をはやした神と思わしき者とともにそこにいた。神は微笑みながらマリアに話しかける。


「久しぶりだねマリア。そこの私を信仰してくれている信者たちは初めましてかな?私は慈愛と守護の神、アーヴァロン。よろしくね」

「……あ…あ…」

「…?どうかした?」


 動揺して固まっていた3人だが目の前に自分の信仰している神アーヴァロンが降りてきていることに気づき、すぐに跪く。

 そして神の御使いであるマリアが返事をする。


「我が神よ。また私の前に御姿を現していただいたこと感謝いたします」

「そのくらい別にいいよ。神殿だよね。いいよ、建ててもらって。それと御使いとしての役割を頑張ってくれてありがとねマリア」

「は、はい。お褒めいただきありがとうございます!」


 神に褒められマリアが少し照れている。同性であろうと美しいと思うほどの容姿をアーヴァロンがしているせいだろう。

 ……もっとも本人には自覚はないが。


「私はこれから御使いのマリアと話があるから後ろの二人は悪いけどあ下がってもらってもいい?」

「「はっ!失礼いたします!」」

「あなたたちに慈愛の加護のあらんことを」

「「あ、ありがとうございます!」」


 アーヴァロンはそれっぽいことを言って彼らを下がらせマリアと向かい合う。彼女の本題はここからだった。


「さてと……マリア私に話すこと、まだあるよね?」

「……?いえ、アーヴァロン様にお話しすることはもうないはずですが……」

「……マリア…神は何でもお見通しだよ?……こ・じ・い・ん」

「!…それは…」

「建物の老朽化、資金不足、子供の人数増加、……私が気づかないと思ったの?……それとも私は信用ない?」

「いえ!決してそのようなことは……我が神にお話しすることではないと思い…」

「マ~リ~ア~?」

「も、申し訳ありません」

「マリアは私の御使いで初めての信者なんだから……もう少し頼ってくれてもいいんだよ?」

「……よろしいんでしょうか?」

「私がいいって言ってるからいいの!」

「わ、わかりました」


 二人の後ろでハスデヤが笑っている。「それでこそ我が神ですね」と。

 神が気軽に降臨するのも異例だが、「頼って!」という神などもはや前代未聞である。その後マリアとアーヴァロンは話し合う。


「マリア、とりあえず神殿建てるお金のあまりをそっちに使っちゃってもいいよ?」

「だ、駄目です。あれはもともとアーヴァロン様に捧げられた感謝の気持ちです。私の私情で使うわけには…」

「……じゃあ…どうするの?」

「……それは…」


 二人で悩んでいると後ろから声をかけるものがいた。


「……我が神、よろしいでしょうか?」

「…ん?なに?ハスデヤ」

「はい。孤児院の問題を一度に片づけるいい方法がありますよ」

「ほんと!?」

「先ほどアーヴァロン様の神殿を建てるとのことでしたが、その神殿を新しい孤児院にすればよろしいかと」

「ハスデヤ、ナイス!それだね!神殿の中を孤児院として作ろう。どうせ私の神殿なんだから私好みの神殿ってことで」

「よろしいのですか?」

「構わないよ、それくらい。神殿が孤児院になればお金を私の神殿の孤児院に使っても文句ないでしょ?それに神殿と孤児院が一緒になればマリアも神殿に住むことになるから御使いとしてはちょうどいいしね」


 すこし悩んだ後にマリアは。


「……わかりました。我が神よ。ご助力ありがとうございます」

「うん。これで子供たちも安心だね。用件も済んだしそろそろ戻るね。マリアまたね。ハスデヤいこ」

「ありがとうございました、我が神よ」


 嬉しそうに手を振った後にアーヴァロンは消える。神界に帰ったのだ。

 しかしマリアの前にはまだもう一柱の神がいた。

 彼女は微笑みながら帰る前にマリアに自己紹介をする。


「初めまして。私はアーヴァロン様に仕えている神でハスデヤといいます。お互いアーヴァロン様に仕えるものとして頑張りましょう」

「はい。よろしくお願いします。神ハスデヤ様」

「……あの方は他の神とは少し違いますが…優しいお方です。信者であるあなたたちを大切にしていくでしょう。困ったことがあればあの方を頼ってください。まあ多分、祈るより先にあの方が来ますけどね…ふふっ」


 嬉しそうに笑ったもう一人の神は去っていく。神の去ったその部屋には神への感謝の祈りを続けるマリアだけが残った。

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