第5話 小さな神の眠る間に
――――神界 アーヴァロンの間
ここは私の仕えている神アーヴァロン様が管理を任されている空間。
通常の神は空間に自分の求めているものを創造する。象徴や理想などを。だが我が神の空間は……広くてかわいい部屋になっていた。
アーヴァロン様曰く、「これは私の前に住んでた部屋…のちょっと広いバージョンかな」とのことだ。
そしてそんな部屋の主はというと……
「……すぅ……すぅ…」
今はお眠りになっている。自分の初めての信者ができた彼女は喜びのあまり地上に降臨した。そして自分の信者と御使いの儀を行いその反動で疲れてお眠りになっている。
正直あの時は驚いた。通常、神が降臨するには沢山の信者から力を借りるのが基本だ。自力で降臨するなど、まして信者になってくれたことのお礼を言うために降臨する神など異例だ。
だが傍にいる私にはわかる。この方は……こういう方なのだ。
力も立場も関係なく、自分の思うように行動する。
そんな彼女だからこそ神界の隅で泣いていた私を見つけてくれた。
今もこれからもあの時のことは…きっと忘れない。
眠っている我が神の幸せそうな寝顔を見ながらつぶやく。
「お慕いしております我が神……これからもよろしくお願いしますね」
すると彼女がむにゃむにゃと口を動かした後に寝言を言う。
「……ん……えへへ~…ハスデヤァ…だいすきだよ~……すぅ…」
幸せそうな我が神から好きだといわれる。少し顔が赤くなるが…きっとこれは私もこの方のことが大好きだという証。だから私は眠っている彼女の手を引き寄せに自分の頬を当てていう。
「……私も…だいすきですよ…アーヴァロン様」
私は静かに彼女の側にいる。
愛しき我が神が目覚めるその時まで。
―――人間界 アインスの町
私の名はアヴェマリア。ついこの間まで死の淵に立たされていた1人の人間です。ですが慈悲深き神に助けていただき私は今こうして生きています。神は救ってくださった際に私に力を与えてくださいました。
怪我をしている誰かを自分の代わりに助けてほしい、と。
そして優しき我が神の願いを果たすべく私は今、この街の治療院に来ている。ここには大きな怪我をしているが治療のためのお金がなく治療を先延ばしにしている人々が国の支援で応急処置を施してもらえる場所だ。
だができるのは応急処置までで怪我に苦しんでいる人々がここには沢山いる。ならアーヴァロン様に仕えし私がするべきことはただ一つ。
「院長、ご無沙汰しております」
「おや…アヴェマリア殿ですか。お久しぶりです。今日はどのようなご用件でしょう?孤児院の子供ですか?」
「いえ…今日は果たさなければならない使命により尋ねさせていただきました。院長、この院内で手の施しようがない重症患者のもとに連れて行ってもらえませんか?」
「ふむ。なにが目的かはわかりかねますが…あなたという人のことは知っています。わかりました。ご案内いたしましょう」
「感謝します」
そうして彼女が案内されたのは怪我で呻き声や悲鳴を上げる患者たちの地獄のような部屋だった。
「これは……ひどいですね…」
「……わたしもできる最大限のことはしました。だが…これが限界なんです。国だって資金を無限にくれるわけじゃない…。力のない私には…どうすることもできない……すみません」
悲痛な声で院長が懺悔する。
私は病室の中に入っていきながら院長に微笑み言う。
「大丈夫です。そのために私はここに来たんですから」
「…?いったい何を?」
疑問を抱いている院長を背に私は入ってすぐの場所にいる全身がやけどで爛れた患者のもとに近寄る。患者は私に気づいたが呻き声をあげて手を伸ばすのが限界のようだ。助けを求めるように伸ばされた手。
私はその手を両手で握りアーヴァロン様から授かった慈愛の力のを発動する。
「……苦しみし子らに慈愛の光を。……我が神の威光をここに示せ。
……【
病室が銀色の光に包まれる。その光は美しく、見るものを魅了し悲愴に包まれていた病室は静寂に包まれる。そしてその光が収まったときそこには、
「あっ、あれ?俺は…いったいどうしたんだ?」
全身のやけどが治り喋れるようになっていた包帯の男の姿があった。
周囲にいた怪我人たちもそして…後ろにいた院長も驚きのあまり唖然とする。起こりえない奇跡を目にしたからだ。
困惑する彼らをよそに彼女はやけどの治った男性に語り掛ける。
「私は慈愛と守護の女神『アーヴァロン』様の御使いのアヴェマリアと言います。我が神の願いによりあなたの傷を癒させていただきました」
「……ど、どうして神の御使いが?それに神の願いとは…」
困惑して質問する男性にアヴェマリアは静かに答える。
「我が神、アーヴァロン様の願いはただ一つ。すべての人間たちが笑顔で幸せに過ごす世界なのです。どうか…優しき神に感謝を…」
男は泣きながらアヴェマリアの手を強く握り返す。
「ありがとう……ありがとうございます。…神よ。感謝します…」
男の感謝の言葉を胸にしまい私は病室の他の患者たちに目を向ける。
他の患者たちは困惑するような、どこか期待するような目をしながら私を見ている。
「これよりここに居る方々の傷を我が神の慈悲により治させていただきます。…一人ずつ順番に治していくのでどうかお待ちください」
そう言って私は一人、また一人と傷をいやしていく。
あのお方からもらった奇跡を皆に伝えるために。
病室の重症患者たちはいつの間にか静かに拝んでいた。
奇跡の力で怪我を次々治していく聖女と、その力を授け怪我人を救うよう願った聖女の信仰する女神に。
―こうしてアヴェマリアは町の中で怪我人を治していく。
ただ信じる自分の神の優しい願いのために。
奇跡の力で傷を癒し見返りを求めない彼女は町の中ではいつの間にか聖女と呼ばれていた。
そしてその聖女に力を与えた優しき女神としてアーヴァロンの名は広まり、アーヴァロンを信仰する者たちは増えていった。
その女神が寝ていて知らぬ間に。
こうしてアインスの町では小さな奇跡が起こり始めた。
だが町の人間たちは知らない
この町の奇跡はまだ始まったばかりだと
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