第7話 時を経て出来上がるもの
アーヴァロンが再度降臨してからはや1カ月。
無事アインスの町に「アーヴァロン孤児院神殿」が建てられた。
だが実は町の人間たちには知られざる真実があった。
……実は本来はもう少し小さな神殿になる予定だったのだが予定していたよりも大きな神殿になってしまったということだった。
理由を建築を担当したものに聞いてみると、
「それが……作業中に頭の中に誰かの声が響いて…『子供たちが快適に過ごせるように』という指示のもと造ったらこうなった」
とのことである。そう神界からアーヴァロンが子供たちが暮らしやすいようにと注文をしていたのである。
もちろん神の声だと気付いた作業者たちはその声に逆らうこともできずにその神の注文のままに建築をした。
建築が終わったとき神から、
「ありがとね!あなたたちに祝福を!」
という嬉しそうなお礼が聞こえたという。
……余談だがその後その建築にかかわった作業者たちは一切の病気にかかることなく人生を終え「アーヴァロン神の加護」として語り継がれた。
ちなみにアーヴァロンはその1カ月何をしていたかというと…
「我が神。これからこの世界について勉強を始めましょう!」
「!?」
「世界の情報は簡単に読み取れますが先に知っておいて損はありません。どうせ今はやることもないのですし」
「えええ~勉強……いやだよ~」
「駄目ですよ。しっかりしてもらいます」
「……じゃあしっかり勉強したら何か言うこと聞いてくれる」
「はい。勉強頑張ったらなんでもいうこと聞いてあげますから…」
「よしっ!わかった。勉強する。だから今日から寝るときはハスデヤは私の抱き枕ね!」
「!?」
というやり取りのもと勉強に勤しんでいた。
ハスデヤは抱き枕として毎日アーヴァロンに抱き着かれ顔を真っ赤にし恥ずかしがりながらも若干嬉しそうにしていたそうだ。不眠症になったが。
こうして神殿も完成し孤児院から子供たちが移り住む。
前の孤児院よりも大きく設備も整っている孤児院神殿を子供たちはすぐに気に入った。そしてそんな子供たちの様子を神界から見ているアーヴァロンもご機嫌である。
―――神界 アーヴァロンの神域
私は今、自分の部屋で自分の神殿の子供たちの様子を見ている。
「ハスデヤ!見てみて!みんな嬉しそうにお風呂入ってるよ!作業してた人たちにお願いした甲斐があったね!」
「……まあ作業してた人たちしばらく固まってましたけどね」
折角建て直すんだから子供たちが住みやすいようにお願いしてみたら
結構無茶を聞いてくれた。ごね得ごね得。
ハスデヤ曰く、「貴族の館並み」だそうだ。よかったよかった。
私はそのまま子供たちの様子を見続けている。
そして夕方頃になって違和感に気づく。
「…あれ?今日は確かマリアが子供たちの夕飯作る日だったはずだけど……マリアいないね」
「確かマリアさんは今日は怪我人の治療で出ているんでしたね。夕飯には間に合う予定だったはずですが……なるほど事故で怪我人が増えて帰るのが遅れているようですね……これでは子供たちの夕飯には間に合いませんね」
「……これは一大事だよ!ハスデヤ!……よし!いこっ!」
「…だいぶ慣れてきましたが……降臨はふつう早くても数百年に一度、というのが普通の神の周期なんですが…」
「よそはよそ!うちはうち!だよ!」
「……まあ子供たちのためならしょうがないですね…」
こうして3回目の降臨が始まる。
―――人間界 アインスの町
私は今、神殿への道を走っている。緊急で入ってきた患者の治療で時間がかかってしまった。今日は孤児の食事当番…子供たちがおなかをすかせていると思うと申し訳ない。早く帰らないと…。
息を切らせて私は神殿に入っていく。そこには…、
「あーっ!それ俺のシチューだぞ!返せよ!」
「私のだよー。おかわりがくるまで待ってればいいでしょ!」
「おいしーい。こんなの今まで食べたことないよ」
そこには夕飯を食べている子供たちの姿があった。
どうやら私以外の誰かが夕飯を作ってくれていたようだ。
でもこの食べ物はいったい?見たことのない白いスープだ。
そして私に気づいた子供たちがこちらに声をかけてくる。
「あーっ!マリアお姉ちゃん!おかえり!」
「おかえりー。お仕事お疲れ!」
「ただいま。みんな遅れてごめんなさいね」
「ううん。大丈夫だよ!かわりにアヴィーお姉ちゃんがシチュー作ってくれたんだ。マリアお姉ちゃんも食べる?」
「シチュー?……アヴィーお姉ちゃん?」
「うん。お姉ちゃんの友達なんでしょ?今シチューのおかわり取りに行ってるよ」
……おかしい。私の知り合いに「アヴィー」なんて友人はいないはずだ。
それとも私が忘れている古い友人などだろうか。
心当たりのない私は子供たちに尋ねる。
「アヴィーさんは…どんな人なの?」
「アヴィーお姉ちゃん?えっとねぇ…」
「奥にあるアーヴァロン様の像にそっくりな人だよ!」
子供の言葉を聞いた私は絶句する。
もしかしたら……もしかするかもしれない、と。
そうして私が固まっているうちに奥の扉が開く。
そこには…大きな鍋を持った……我が神がいた。
「みんなー!おかわり持ってきたよー」
「「「「「「「「やったー」」」」」」」」」
「……あっマリアおかえり~。マリアもシチュー食べる~?」
「…あっ……あっ……」
驚きすぎて声も出ない。翼こそないし瞳の色は変わっているがその御姿はまぎれもなく我が神そのものだった。
驚き私が固まっているうちに奥の扉からもう一人の人物……もとい神が出てきた。
「……ああ、マリアさんおかえりなさい。食材の使ったものはリストに書いておきましたので…」
とハスデヤ様も出てきた。私は完全に混乱し固まっている。
これは……神が与えた試練なのでしょうか?
軽いパニックに私が入っていると我が神がいつの間にかスプーンをもってこちらに来ていた。
「……あ…あの我が…むぐっ!?…」
「はい、マリア。私が作ったシチューだよ~」
尋ねようとした私の口にスプーンが差し込まれる。
どうやら子供たちには彼女が神だということは秘密らしい。
神の意向を汲んで私は言い直す。
「あの…アヴィー…様。何故こちらに?」
「マリアが夕飯作るの間に合いそうになかったから代わりに作ってあげようと思って」
「……それはご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」
「別にいいよ。言ったでしょ?もう少し頼ってって。それに私の神殿で幸せそうに暮らしてる子供たちが喜んでくれたなら……私は満足だよ!」
「……アヴィー様……」
私は心が温かくなるのを感じる。やはり我が神はお優しい。
この神に出会えた奇跡に…私は感謝します。
私が感動していると我が神が子供たちのほうを向いて話し出す。
「じゃあマリアも帰ってきたし!私は帰るね。またね~みんな~」
「では私も失礼しますね」
そう言って二人の神は入り口から出ていく。
私は頭を下げながら心の中で祈る。
神よ。お助けいただきありがとうございました。
―――神界 アーヴァロンの神域
私は無事人間界から帰ってきた。隣にはハスデヤもいる。
「ふう…久しぶりに料理したけどなんとか覚えててよかった」
「……多分子供に料理作る神はアーヴァロン様だけでしょうね」
「ん~降臨して疲れたし……ハスデヤ、出番だよ~」
「……ま、また私に抱き着いて寝るんですか?」
「うん。ハスデヤは嫌?」
「そんなことは無いです!ありませんとも」
そんなやり取りをしながら私は眠りにつく。
このままあの子たちやあの町にいる人たちが幸せに一生を終えられたらいいなぁ。
そんなことを思いながら神は眠る。
そしてしばらくが経ったアインスで運命の歯車が動き出す
神の望まない形で
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