第8話 崩れ去る平和と優しき怒り

 現在アーヴァロンとハスデヤは上位神の間に向かっている。

 目的は上位神同士で行う定期的な報告会のためだ。

 お互いにどうなったか。人間たちに何かあったか。

 世界に異変が起きてないか。

 などの話を上位神たちでするために開かれる。

 尚、今回は神になったばかりのアーヴァロンにちゃんと信者ができたか。

 という報告もある。…というか今回の報告会のメインはそれだった。


 そして2柱が上位神の間に入る。

 そこにはイヴァルティアとアポロヌスがいた。


「来たよ~。…あれ?他のみんなは?」

「僕たちが時間より早く来てるだけだから少ししたら来るんじゃないかな」

「多分…マイペースな神は遅れてきますけどね…」


 そんな話をしていると集合時間が来る。

 そしてちょうどにヴァルドゥールが到着する。


「やぁヴァルドゥール。他の子たちはまだかい?」

「…俺が来たときは見てねえな。あいつらのことだ。どうせまた遅刻だろ?」

「……あの二人はマイペースですから…」

「…毎回なんだね…」


 集まっている神達でそう話していると残りの2柱が入ってくる。

 ぴょんぴょんとはねながらヘクセンチアが来て、その後に眠そうなケリュケイオンが入ってくる。


「二人とも。また遅刻ですよ」

「いやぁ~メンゴメンゴ!忘れかけてたんだよ~」

「……寝起きはつらい…」

「…ったく、こいつらは…」



 呆れるヴァルドゥールとその他の神達。

 そして少しした後に各々の報告会が始まる。

 他の神達の報告が終わった後にアーヴァロンの番がやってきた。


「……さてこれで通常の報告は済みました。それではアーヴァロン。あなたの現状を教えてもらっていいですか?」

「ん、わかった。えっとね…とりあえず最初に降臨したところからかな?」

「「「…最初に降臨!?」」」



 イヴァルティアとケリュケイオン以外の神が驚きのあまり声をあげる。

 イヴァルティアは「あらあら…」とつぶやきながら微笑んでいる。

 ケリュケイオンはいつも通りの無表情。


 そして我慢できなくなった。ヴァルドゥールが前のめりに聞いてくる。


「おまっ!最初に降臨って……どれだけ負担がかかると思ってんだ!信者なしじゃ上位神でもただじゃすまないぞ!」

「うん。びっくりだね。まさか28日も寝ちゃうなんて思わなかったよ」

「……28日?むしろそれだけで済むなんてお前どうなってんだ?」


 若干怒り気味のヴァルドゥールが大声で話しているとイヴァルティアがストップをかけてきた。


「ヴァルドゥール。とりあえず報告を聞きましょう」

「……わかった」


 ドカッと席にヴァルドゥールが座る。まだ納得していないようだがとりあえず報告を聞く姿勢になったようだ。


 その様子を確認したアーヴァロンが報告を再開する。


「……で、最初に降臨したときに初めての信者を御使いにしたの。

 …で、その後に28日間寝ていて起きたらアインスの町の3割くらいの人が私の信者になってくれていたんだ」


 ここまでの話だけですでに個人のリアクションが出るほどにアーヴァロンの報告はおかしかった。


 イヴァルティアは変わらず「あらあら…まあまあ…」

 アポロヌスは「初降臨と御使いの儀を同時に…」と目を点にしている。

 ケリュケイオンは無表情のまま。

 ヘクセンチアは「アハハハハハ!なにそれ凄すぎ!」と笑っている。

 ヴァルドゥールはもはや固まっている。


 だがまだアーヴァロンの報告は終わらない。


「でね。御使いの子の活動で感謝した人たちからお金が奉納されたからそのお金で神殿を造ってもらったんだ」

「もう神殿を造ってもらったんですね」

「1カ月で神殿まで建ててもらえるなんてすごいね!どんななんだい?」

「見てみる?」


 アポロヌスにどんな神殿か聞かれたアーヴァロンが空間を操作してアインスの町を映し出す。そこにはシンプルながらもしっかりとした神殿が映し出された。


「……へーしっかりしてんじゃねえか」

「おや…ヴァルドゥールが褒めるなんて珍しいですね」

「…確かに…」

「右に同じ」

「デレたかー」

「おまえら!表でろっ!」


 そうやって上位神たちが戯れていると神殿内部の光景が映し出される。

 …そう孤児院の部分が。


「…うん?これ神殿内部かい?」

「…?子供がいる」

「……子供が住んでいるようですね。…アーヴァロンこれは?」

「え?孤児院だけど?」

「…神殿内に…孤児院かい?」

「うん。だって名前も『アーヴァロン孤児院神殿』だし」


 再び他の神達が個別でリアクションをする。

 どうやらアーヴァロンの行動は大体予想外のようだ。

 少しして他の神達は落ち着きを取り戻す。


「ふむ…まあ驚きはしたがこれはこれでいいね」

「確かにねー。子供たちも楽しそうだし」

「まあ…悪くはねえな…」

「ふふ…アーヴァロンらしいですね」

「同感」


 こうして無事アーヴァロンの報告も終わり報告会が終わろうとしたその時映し出されていたアインスの町の周辺に異変が起こる。





 ―――アインスの町 


 ここはアインスの町を守っている門番たちの駐屯所である。

 そしてその駐屯所の門兵長が異変に気付く。


「おい!何だあれは!?」

「……軍隊だと!?おい!急げ!門を閉じろ!」

「くそっ!なんでこんなところに!」


 門兵達が外敵に気づきいち早く門を閉める。

 そしてアインスの町の周辺を突如現れた軍隊が囲う。

 その軍隊の旗には隣国の印があった。


 そして軍隊の中から一人豪奢な鎧を着た男が出てくる。

 男は部下に魔術を使わせる。それは音を拡散させる魔術だった。

 町中に男の声が響く。


『聞こえるかねアインスの町の住民諸君。これから我らはこの町を手に入れ軍事拠点として作り替える。この国を攻め滅ぼすためにな』


 男の言葉を聞いた町の住民たちが驚きに声をあげる。

 この町は国の端にあるが軍事力などないただの商業を行うための場所に過ぎない。だからこそこの町は争いとは無縁の平和な場所だったのだ。

 だからこそ突如自分たちが戦争に巻き込まれたことに住民たちは驚く。


 住民たちが驚き怯えているうちに男は続きを喋りだす。


『なおこの町にいる人間に用はない。だから住民は全て殺す。1匹残らずな。ああ…女は生かしてやろう。犯した後に殺すがな。アハハハハハハ』



 この男の言葉を聞いた町の住民はパニックに陥る。突然死の宣告をされたのだ。無理もない。

 先ほどまで笑顔にあふれていた町に阿鼻叫喚が響き渡る。

 住民からしたらここはもう地獄だった。


 そんな町の中の状況を察した男が楽しそうな笑みを浮かべて話す。


『狩りの時間だ!せいぜい抵抗してくれよ?でなければ狩りにならんからな!ハハハハハハハハハ』


 絶望に包まれた町に男の笑い声が響く。





 ―――神界 上位神の間


 神達は上位神の間に映し出されたアインスの町の状況に焦りを浮かべる。


「何という愚かなことを…」

「これまずいよ!アポっちゃん何とかしなよ」

「無理を言わないでくれ!ここには僕の信者もいないし。そもそも僕は戦闘なんかは専門外だ!いうならヴァルドゥールだろ」

「んじゃヴァルドゥール何とか…」

「………いまからここに俺の御使いを呼んだとして…町の住民が皆殺しにされた後だぞ?」

「すでに手遅れ」


 神達が各々で対処しようと話し合っていたその時、

 神界が大きく震える。人間界で言うなら地震が起きたように。

 だがここは神界。そんなものは起きようはずもない。

 ならなぜそんなことが起きているのか。

 その答えは上位神の間にあった。


 上位神の間で忙しく話していた神達の声が一瞬にして消える。

 何故なら空間を振るわせるほどのプレッシャーにその部屋は包まれていた。そこにいた神達はゆっくりとそのプレッシャーの発生源を見る。

 そこにいたのは……アーヴァロンだった。

 ただしいつもの優しい表情とは違う。

 怒りに震えたその表情はもはや無表情にも等しくなっていた。

 背中からは激しく光を放ちながら八翼が出現しておりその恐ろしくも荘厳な姿に他の上位神たちは息をのむ。

 そしてアーヴァロンが口を開く。


「ハスデヤ」

「はい、我が神」


 呼ばれたハスデヤは他の神とは違い驚いてはいなかった。

 理由は簡単だった。ハスデヤは知っていた。

 この神は横暴を許さない。この神は理不尽を許さない。

 この神は誰かの幸せが大好きだ。

 そしてこの町にいるのは他でもない彼女の信者愛する子らだ。

 ならば優しい彼女が怒らないはずがない。

 これがハスデヤが知っている彼女だ。こうなるのは当たり前だった。

 冷たい声のままアーヴァロンは言葉を続ける。


「私は降りてくる。ハスデヤはここで待機せよ」


 その言葉に嬉しそうにハスデヤは跪いて答える。


「はい。…我が神よ、その怒りは正しゅうございます。

 どうぞ御心のままに…」

「……わかった。行ってくる」



 そう答えたアーヴァロンは人間界へ降りる 

               愛する子らを護るために

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