第3話 探し求めて手を握る
私は神の仕事をするためのパートナーを探し神界を歩き回る。神界にはいろいろな場所がある。
いろいろな神が自分の威光を示すために自分の所持している空間をいじって自分の好み、または自分の力の象徴などを示した住処を作るらしい。
そんなごたごたした神界を私は歩く。日本の遊園地よりハチャメチャな空間な気がする。ときどきで会う神達が「こ、こんにちわ」とか「お初にお目にかかります。私は…」など色々話しかけてくる。無下にするのは嫌なのでしっかりと交流し、それとなくどんな神なのか探りながら私は歩く。だが私がいいなと思う神はいなかった。
そうやって神界を歩くこと数時間。
「……はぁ…私好みの神…見つからないなー…」
気づけば神界の端の草原にいた。ここはイヴァルティアの管理している空間「安寧の草原」というらしい。
彼女らしいな。と思いつつ草原の中を歩く。
さっきまで神が絶え間なく話しかけてきたので、誰もいない草原でゆっくり歩くのは心地いい。そうしてゆったりと歩いていると草原の奥、夕焼けが見える崖の前で一人で座っている女性を見つけた。私より背は高く、背中には綺麗な2つの翼がある。髪はすこし癖のついたピンクの短めな髪型、胸は……私より大きい。イヴァルティアと同じくらいだろうか。
いいなぁ……。
そう思いながら彼女を見ていたが本人は崖に腰かけたままずっと俯いている。落ち込んでるのかな?
「こんにちわっ!」
「えっ!あっ!こ、こんにちわっ」
女性が慌てて返してくる。少し慌てた顔がかわいかったので思わず私は微笑む。
「あの…何か御用ですか?」
「こんなところで俯いてるから、どうしたのかな?って思って」
それを聞いた彼女はこちらを見て申し訳なさそうな感じの顔をして言う。
「私を知らないということはあなたは生まれたばかりの神なんですね」
「うん。ちょっと前に生まれたばかりかな」
「だったら私には関わらないほうがいいですよ」
「……どうして?」
彼女は少しためらった後に話し出す。
「……私は滅殺の神ハスデヤと言います。私は以前は上級神として崇められていましたが……大罪である「神殺し」をして……今は下級神として役割もなく……ただ存在しているだけなんです。…私と関わっていたら他の神から除け者にされてしまいます。…だから…」
「ねぇ…?ハスデヤ。どうして神を殺したの?私にはあなたが悪い神様には……見えないよ。だって今も私のこと心配してくれたもの」
私はハスデヤの言葉をさえぎって疑問を聞く。彼女が私利私欲で誰かを殺すとは私には思えない。まっすぐに彼女の瞳を見て私は返答を待つ。すると何かを思い出したハスデヤの瞳に怒りが湧き上がる。
「…だって……。だって!あの神は……自分の信者たちをだましてお互いに戦争をさせていたんです。……『暇つぶしのゲームだ』なんて言ってっ!……笑顔で暮らしていた罪のない人たちを……殺し合わせてたんですよ!……そんなの…そんなの……許せるわけ…ないじゃないですか!」
そうやってハスデヤは 怒りながら 泣きながら 叫ぶ。
そして彼女は両手を地面について泣き出してしまった。
静かな草原に彼女の泣き声がこだまする。
そんなハスデヤを見て私は、ゆっくり近づいて泣き崩れているハスデヤの頭を優しく抱きしめる。
「そっか。優しいんだね。罪だってわかっていても…助けるために武器を手に取ったんでしょ?だったら……ハスデヤは優しいよ」
「……あなたは私のことを愚かだと笑わないんですか?……血に飢えた神だと蔑まないんですか?」
「そんなこと、絶っ対にしないよ!私だってそんな奴いたらグーで殴ってやるもん!だから……ハスデヤを馬鹿になんて絶対しないよ」
そう言った私を彼女の瞳が見る。そして、
「……うわぁぁぁぁぁん………」
と私に抱き着いて泣き始めた。
私は泣いている彼女の頭を抱きしめて優しく撫でる。
そのままハスデヤは綺麗な夕日が沈むまで泣いていた。
―――夜の草原
「……すいません。こんなに暗くなるまで泣いてしまって…」
泣き止んだハスデヤは恥ずかしそうにいう。やっぱりかわいい。こんな神様と一緒にいたいな。と考えながら返事をする。
「すっきりした?」
「…はい。ありがとうございます」
そう話していると私に名案が浮かぶ。
「ハスデヤ。確か今なにもしてないんだよね?」
「……?はい。今はなんの役目もありません」
「ん!じゃあ決まりだね。いこっ!ハスデヤ!」
「えっ!いや?どこに!?」
困惑する彼女の手を引いて同僚のいる上位神の間に向かう。
―――上位神の間
「……というわけで今日から私のパートナーになる予定のハスデヤだよ」
他の上位神の前でハスデヤを紹介する。
他の神達は、
「あらあら」
「オゥ…これは予想外だなー…」
「想定外……」
「まさかそこをチョイスするなんて…僕も読めなかったね」
「………」
と様々な反応をしている。しゃべってないのはヴァルドゥールだ。
……ちなみに状況についていけてないハスデヤはフリーズしている。
そうして状況の中、黙っていたヴァルドゥールがしゃべりだす。
「……お前はそいつについて知っているのか?そいつは神を殺せる神力を持っていて、現にもう1人殺している。そんな奴をパートナーに選ぶなんて正気か?」
その言葉を聞いてハスデヤが俯く。
むー余計なこと言わないでよー。すこし怒りながら私は答える。
「ハスデヤは意味もなく殺したりなんかしない。私がハスデヤに殺されたら…それはきっと私が間違えたときだから…だから問題なしっ!」
ヴァルドゥールの目を見て強く言い放つ。
「……はぁ……好きにしろ」
ヴァルドゥールが部屋から出ていく。撃退成功。
ハスデヤも嬉しそうに私を見ているし、よかったよかった。
「てなわけでハスデヤをパートナーにするけど……。イヴァルティア、問題ない?」
「ええ。彼女がいいというなら構いませんよ。ハスデヤ、それでいいですか?」
その問いに何か困った表情のハスデヤが答える。
「あの……イヴァルティア様……まず状況を教えてもらえませんか?」
その問いに上位神たちが固まる。そして……ジト目で私を見てくる。
「あの…アーヴァロン?」
「……状況理解」
「……もしかして」
「……説明してないのかい?」
その問いで私は自分の記憶を確認する。
……そういえばまだハスデヤに説明してないし自己紹介すらしていなかった。
「そういえば忘れてた。えへへ」
こうして呆れる神達とともに説明と勧誘が始まった。
「こほん…では改めて話を進めましょう。ハスデヤ、あなたは彼女アーヴァロンの側仕えの神に選ばれたんです。以降彼女に仕える神になることをよしとしますか?」
「アーヴァロン?」
「えっとそれは私の名前なの。慈愛と守護の神アーヴァロン。それが私なんだ」
「………」
ハスデヤが固まる。どうやら頭を整理しているらしい。しばらく考え込んだ後、盛大にハスデヤが叫ぶ。
「もしかして……上位神様ッ!?」
「えへへ……」
ハスデヤが物凄く驚いている。周りで他の神がジト目でこちらを見ながら「…自己紹介すらしてなかったのか」という雰囲気を出している。
そしてしばらく悩んだハスデヤがしっかりとした表情で返事をしてくる。
「私でよければ……アーヴァロン様に仕えさせていただこうと思います」
その返事を聞いた私はダッシュでハスデヤに抱き着く。
「やった。ハスデヤ!これからよろしくね!ねっ!」
嬉しくて私はハスデヤにムギュッと抱き着いて頬をスリスリする。
そんな私をみんなが笑顔で見てくる。
こうして私に新しい、素敵な家族ができました。
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