第3話 若さ故の食欲

 あの空間で倒れても戦死はしない。 

 二度とあの空間に入れなくなるだけだ。

 だが結果、使える隊員数は減ってしまう。


 そして戦闘も2つの戦場を落として。

 感知出来ないけれど日本の歴史と文化が何処かしら替わって。


 そして3回目の戦場である事件が起きる。

 展開中の戦場に突如、87式自走高射機関砲ガンタンクが出現。

 敵を一掃して姿を消すという事案が発生した。


 その事案を調査した結果、出現5分前にある兵が、『せめてここにガンタンクがあったら』と言ったのが原因らしいと判明。

 直ちにこの事象の持つ有用性と実用性について研究が始まる。


 結果あの空間では、

  ○ 発せられた『単語』が形を取る

  ○ 出現までの時間は対象重量と発した個人の重量比の二乗に比例

  ○ 言葉は具体的なものほど威力が高い

という事が判明。

 以降の戦闘は劇的な変化を迎えた。


 そして自衛隊は単語を使用した戦いに適した人材を徴用。

 結果として徴用されたのが俺を含むこの3人の訳だ。


「しかしわからない事だらけだよな、まだ」

 これは俺の本音だ。

 敵とか異空間とかそういった情報だけでは無い。

 自衛隊の、ひいては防衛省の対応そのものもよくわかっていないのだ。

 同じような部隊が他にあるのか、あるならいくつ位かもわからない。


 中隊長曰く。

「私が中隊長だというところである程度察してくれ」

 そう言われても困る。

 こちとら自衛隊フリークでは無いのだ。


「おそらく上層部もわからない事だらけ。体制も対策も試行錯誤というところなんでしょ」

 文月は気軽に話したり返答したりしてくれる。

 葉月を含め、シミュレーター訓練あわせて5回目位の間柄なのだが。

 おかげで仕事場以外で女性と話した事のない俺は大変助かる。


「国際的に協調しようと思ってもさ、相手の国がどこまで敵に侵食されているかわからないじゃない。既に完全に敵になってしまっているかもしれないし。だから話し合いすら出来ないし、敵がどれ位攻めてきているのかすらもわからない」


「でもせめて、今自分の国がどれ位の体制でやっているのかくらい知りたいな」


「敵の総力がわからない以上、まだ公に出来ないんでしょ。それに今のところ、私達3人には守秘義務も特に無いようだし」


 これは本当だ。

 中隊長自ら言った位だ。


「あまりに現実と離れすぎていて、正直誰かに話したところで誰も真実だとは信じないだろう。だから全ては機密事項だが特に箝口令は出さない。自分の判断で適宜やってくれ。ただ話すと自分に不利になる可能性は承知しておくように」


 そんなところだ。

 話しながらガンガンおかず等を取ってきて食べまくる。

 若返る前はもうKOKOSのモーニングビッフェはもう充分だと思ったのに。

 これだけは若返って有り難い点だ。


 だが人生設計は大幅に狂ってしまった。

 この先どうなるかすらよくわからない。

 自動車免許の更新は、取り敢えず自衛隊の方で何とかしてくれるらしいけれど。

 何せ写真と全く変わっているからな。

 本人だと試験上で強弁しても通用しないだろう。


「さて、充分食べたしそろそろ戻るか」


「了解」

 葉月の返事が返ってきた。

 確かに充分以上に食べている。

 皿の数等を見ればよくわかる。


 3人で分担して皿だの何だのを片付けて。

 そして歩いてマンションへと戻る。

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