第2話 戦闘終わりでモーニング

 一応マンションのリビングに相当する部屋。

 でもあるのはだだっ広いフローリングの空間だけ。

 家具や調度といったものはほとんど無い。

 4人用の食卓テーブルが2つとその上にある無線機、パソコン等が全て。

 ただ片方のテーブルは書類が乱雑に積んである状態。


 テーブルは中隊長とオペーレータが1つずつ使っている。

 あとは壁に立てかけてあるパイプ椅子が4脚。

 それだけの部屋だ。


「本日の任務は終了。お疲れさん」

 高尾中隊長がそう告げる。


 フルネームは高尾千秋たかおちあき、女性。

 防衛大出身で設定年齢は28歳、一尉。

 なお本当かどうかは不明。

 何せ俺が20歳まで若返らせられる状態だ。

 何があってもおかしくない。


「どうする。帰る?」

 同僚の平山葉月ひらやまはづきがそう尋ねる。

 彼女も俺と同じ、投稿サイトから引っ張られてしまった境遇で、前衛格闘戦担当。

 ちなみに彼女は大賞で、俺は特別賞だ。

 その辺ちょっと劣等感が無いでも無い。


「何なら軽く飯食べてから帰ろうよ。2人ともどうせ家の周り、何も無いんでしょ。それに今ならKOKOSのモーニングビッフェ、ゆっくり食べられるし」

 彼女も同僚の南平文月みなみだいらふみつき

 同じく特別賞で引っ張られてしまった支援担当。

 俺を含めてこの3人がここの支部の戦闘担当だ。


「そうだな、朝飯くらい食べて帰るか」

「そうね」

 葉月も頷く。


「それじゃ3人で飯を食べてくる。戻って来たら転送宜しく」

「了解ですよ」

 オペレーターにして先任曹長にして中隊長伝令の狭間陽菜はざまひなさんに言っておいて、3人で部屋を出る。

 部屋の外は朝。

 まもなく社会が動き出そうかという時間だ。


 ◇◇◇


 マンションからKOKOSまでは歩いて5分。

 取り敢えずトレーに載るだけのせてきて。

 2人と話しながら食べる。


「それにしても若返りや瞬間移動の技術、凄いよね。あれが一般的に使えたら大もうけなのに」

 そう文月が言う。


「でも全部この異常現象のせいなんだろ。だからあの空間と繋げられる付近でないと使えないし、今のところ防衛省というか自衛隊独自の技術らしいし。他の文化圏ではどうかわからないけれどさ」


 そう。

 別空間に敵は攻めてくる。

 この世界にごく近接したその空間で、俺達は敵を迎え撃つ。

 勝っても負けても変化はそれほど無い。

 負けても敵は日本までやってこないし、倒れた者も死にはしない。

 あの別空間には二度と行けなくなるだけで。


 ただ戦闘の一局面で敗北するたびに。

 日本の文化や歴史が敵の世界に汚染されるらしい。

 負けが続くと次第に敵の世界に侵されて同一化していき。

 最後には敵の世界と同一の文化と歴史を持つ事になる。

 俺が受けた説明はそんな感じだ。


「各国、各文化が敵と戦っている訳か」

「あくまで推測らしいけれどね。何処の国も公にしていないし。それに戦い方も各国それぞれ違うらしいから」

 文月がサラダをつまみながらそう返事。


 なお葉月は無言でソーセージをがっついている。

 こいつは基本的に口数は少ない。

 元の年齢とか境遇とかはわからないけれど。

 まあそれを言ったら俺を含めた3人ともそうだ。

 戦闘の為、身体機能を若返らせられている。


「それにしても全然知らなかったな。こんな戦いが始まっていたなんて」

「極秘らしいしね。それに常識外れすぎて誰も信じないだろうし」

 文月が今度はパンを頬張りながら返答。

 確かにそうだ。


 異空間が観測されたのが9ヶ月前。

 異空間から敵が侵入。

 こっちの世界に対する侵略性が明らかになり戦いが始まったのが約半年前。


 当初の戦闘は自衛隊隊員により行われていた。

 しかし異空間に送り込める質量はそれほど大きくない。

 人間と小型携行火器がやっとの状況だ。

 そんな中、小型高速物体を主体とした敵に自衛隊は苦戦。

 キルレシオは最悪で1対30近くまでなったらしい。

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