第4話 俺のマイホーム

「参考事項だが、この部隊も拡充する可能性が高くなった。移転先を新たに検討しているところだ。まあ秘密裏の活動だからまたマンションなり会社なり一般住宅なりを買い取る等して偽装するだろうが。

 そのうちに話が具体化すると思う。その時は宜しく頼む」


 という事で改めて解散。

 俺達は転送装置で各自の家へと送られる。


 転送装置は本来戦闘空間へ異動する為のものだが、応用すれば色々な事が可能だ。

 日本の文化圏なら何処へでも移動出来る瞬間移動装置としても使えるし、操作次第では人を若返らせる事も出来る。

 なおこの装置がどういう方法論で発明された、またはもたらされたかは不明。

 機密扱いで中隊長も知らないそうだ。

 この基地以外に何処に幾つあるか等も不明。


 そんな不明な装置を使って。

 俺は自分の愛しき我が家に帰る。

 中古投げ売り価格で購入したのだが家自体はまだ綺麗だし、広さも充分。

 俺の終の城になる筈だったのだが、何せこの先どうなるかわからない。

 ただ住み心地はいいし日当たりも良くて気に入ってはいるのだけれども。


 家に帰って10分後。

 インターホンのチャイムが鳴る。


「はい」

「回覧板です」

 隣の隣の隣の隣くらいに済んでいるばあさんの声だ。

 ちなみに間にある数件は空き家だったり売り出し中だったり。

 通勤するには都心から遠いし駅からも近くないしで住民流出が相次いでいるのだ。


「はい」

 玄関口から出て回覧板を受け取る。

 ばあさんはまじまじと俺の顔を見て一言。


「あれまあ、前に済んでいた長沼さんはもうお引っ越しされたのかい」

 あ、若返った後直接会うのは初めてだったな。


「叔父は海外へ出ています。留守中は甥の俺が代わりに住んでいます」


「おやまあそうかい。てっきり私はまた他の若いのと同じように引っ越されたのかと思ったよ。この辺は本当に若い人が続かないからねえ……」

 それは仕事が無いからである。

 通勤するならこんな処の家を買うよりもっと近くに買った方が安い。


「それにしてもこの辺は随分と人が減りましてねえ。今週もはす向かいの神泉さんが引っ越されましたしねえ。駒場さんの会社跡も誰も入らないし。本当に空き家ばっかりでどうなるのかねえ……」

 このばあさん、話し出すと長い。

 うっかりそれを忘れていた。


 仕方なく空の相づちうちながら話が終わるのを待つ。

 終わらない。

 話が2周目に入った。

 最初から繰り返し。

 仕方ない。


「それではすみません。そろそろ仕事の打ち合わせが入るので」

「おやまあ、お客さんがくるのかえ」

「いえ、ネット会議です」


 その辺適当に言って何とか追い出して鍵をかける。

 はあっと一息。

 悪気は無いのだろうが疲れる。

 こちとら深夜2時にたたき起こされたので眠いのだ。

 何せ敵はこっちの都合と関係なく現れるから。

 幸い敵出現の兆候があってから実際の出現まで30分程度の間がある。

 なので着替える位の事は出来るのだけれども。


 取り敢えず寝ておこう。

 俺は服を脱ぎながら寝室へ。

 何せ1人暮らしだからその辺気にすることは何も無い。

 おかげで色々散らかってはいるけれど。

 俺はスマホをベッド前の棚に置いて充電して。

 そしてばたっと横になった。

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