第14話 俺の領域への侵略者
うちのLDKはローテーブルとテレビ、パソコン、そしてそれに接続されたAV機器しかない筈。
そこにいつの間にか応接セットが置かれていて。
そしてそこで寛いでいる人物がいた。
見覚えがある人物だ。
ついでに言うと、さっき別れたばかりの人物だ。
「中隊長、人の家で何をやっているんですか」
「いや、だから飯の時に言っただろ。新しい場所になっても宜しくと」
そういう意味だとは聞いていない。
そしてこの部屋のこの掃除の状況から見て、共犯者は他にいる。
「陽菜さんもグルですね」
「というか、考えたのは陽菜だ。どうしても住宅は嫌だと言ったら、『なら新しい基地の近くに空き部屋がありますから、そこを整備しましょう』と」
そうだろうな。
この徹底した掃除だの整理整頓だのが中隊長に出来る訳はない。
その辺は明らかに陽菜さんの仕業だ。
「それで陽菜さんは?」
「自宅に帰ったと思うぞ」
中隊長を俺に押しつけ、自分は自宅に帰った訳か。
なかなか悪質だ。
「ついでに言うと、陽菜と2人で近所回りもしてきた。今度長沼さんのお宅を借りて会社の寮として利用しますと。ご近所は空き家ばかりだったけれどな。取り敢えず5件程人がいたので挨拶はしておいた」
その辺の悪知恵も陽菜さんだろう。
近所に対しても既成事実化を図ったな。
がっちり外堀を埋められた感じだ。
「もちろん部屋を借りるからといって無茶な事はしない。家賃も払う。だからお願いだ、ここに置いてくれ。何せ自衛隊の住宅は幹部住宅とは名ばかり、築50年手入れ最小限ボロボロのとんでもない建物なんだ。
風呂も今時シャワー無し。浴槽のお湯を沸かすのに50分かかる。何度駆除してもネズミが出る。しかも私の部屋の両脇は新婚で夜中に愛の営みの声が聞こえたりするんだ。壁にヒビが入っているからな。
だから頼む。私をここに置いてくれ!」
中隊長、ソファーから立ち上がって。
なんと土下座をしてしまった。
うーん。
考えてみると確かに可哀想かな。
自衛隊の住宅は確かに場所によっては酷いと聞いてもいるし。
それにここまで準備されると今更言いにくい。
まあ、仕方ないか。
「土下座はやめて下さい。いいですよ、当分の間は」
中隊長の顔がぱっと明るくなる。
「本当か」
「まあ当分の間、ですけれどね」
「ありがとう!」
そう言って中隊長は思いきり俺に抱きつく。
「本当に助かったわ。あの宿舎だけは帰りたくなかったの」
おいおい。
思い切りハグはやめてくれ。
俺が本当に若かったら
今でも結構危険だけれど。
何もしなければ中隊長美人だし。
ちょっと女性としては大柄だけれども。
「まあそれはいいですから」
そう言って俺は中隊長を引き離す。
若干下半身に異常が生じているけれどバレないよな。
中隊長は割と鈍感だし。
「それでは夕御飯にしよう。どうせ碌なものを食べていないだろうからと、陽菜が色々用意してくれた」
中隊長はそう言ってキッチン方面へ歩いて行く。
俺はまたしても取り返しがつかない失敗をしてしまったような気分だ。
おかしい。何かおかしい。
平穏なはずの俺の人生は何処へ行ったのだろう。
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