この小説を表すなら、そんな言葉になるでしょうか。どこにでもありそうな、しかしあることを拒絶したくなるような現象にこそ人は恐怖を抱くものですが、これにはそれがしっかりと描かれています。蔵の中の、暗く冷たそうな描写も見事。どこか乾いた、突き放したような文体が、読者の寄る辺のなさを強調するようになっていて、良いです。
S君が請け負った「蔵に水やる」という役目、そしてそれを果たすべく蔵の中に入った彼が見たもの。古い蔵、と言うのは何故こうも恐怖や好奇心を駆り立てるのでしょう。閉ざされた空間に何があるか、そこにあったものはそこに在り続けるのか……蔵の外からは窺い知ることは敵いません。置き去りにされた恐怖は消えているかもしれないしより恐ろしいものに変わっているかもしれない。閉ざされた場所を開くのが怖くなるような、そんなホラー短編です。
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