第16話 素直になろうか
「大丈夫……その気持ちわかるから……」
「桃ヶ池……」
桃ヶ池の表情はどこか悲しげだった。わかるぜ、自分を探してるお前が一番理解してる事だもんな。
「でも、自分が分からなくなった時どうすればいいか、主様教えてくれたよね?」
「俺が……?」
「素直に行動すればいいって……あの言葉のおかげで大分気が楽になったんだよ」
「ああ……」
そういえばそんな事も言ったっけ。あの時はとっさに出た答えだったせいですっかり忘れていた。全く、言った本人なのに情けないぜ。
「だからさ、今度は主様が素直になる番じゃないかなって」
「俺が素直に……」
「そう、だから教えてよ。主様の素直な気持ち」
素直にか……逃げかもしれないが先に進むにはそうするしかない。たとえそれが倫理的に間違っていてもだ。
「引かないか?」
「引くわけないじゃん。ボクの方がドン引きする事してるのに」
「自覚はあったんだな」
「それなりにね」
まあドン引きする原因を作ったのは俺なんだがな。結局、キャラクターの創造主というのは思考までもそのキャラクターに似てしまうらしい。それが俺の素直さに現れていた。
「触れたい……」
「お?」
「お前に……もっと触れたい」
「よく言えました」
風呂場でも十分、刺激的な出来事を経験したのに俺はまだ物足りなかった。胸の他にも触っていない桃ヶ池の数々……全てを感じたいと俺の心が答えた。
「いいのか? 俺は止まらねえぞ」
「別に大丈夫だよ? むしろボクは主様の本心を知りたいから」
「そうか……」
「ほら、おいで主様。全部受け止めてあげるから……」
桃ヶ池の身体に飛び込み触っていない箇所を触りだす。今の俺を1見たら100人中100人が最低、最悪、非常識と批判するだろう。実際、俺のやってる事は桃ヶ池に甘え自分の性欲のままに行動するクズ野郎のそれだ。しかし、非常識な経緯で付き合った俺達には非常識な関係性がちょうどいい。俺はこの瞬間、自分の中の常識が壊れ、非常識な人間に堕ちた。
まあ、ただの逃げかもしれないが……
◇◆◇
ピンポーン
「ん?」
インターホンの音で目を覚ます。時刻は7時30分、学校へ行くにしてもまだ早い時間だ。こんな時間から配達かと面倒くさそうにドアに向かう。
「柏原くーん、いるでしょ?」
「……やべぇ」
ドア越しから聞こえる怒りの混じった声。そう、昨日逃げた相手の枚方が俺の家に来ているのだ。おそらく住所は住吉先生から聞いたのだろう。それでも朝から家に来るとは予想外だった。
「取り敢えず居留守使って……」
「出てこなかったら住吉先生呼ぶよー」
「……無理そうだな」
住吉先生まで来たらドアを破壊されかねない。流石に修復費は払いたくは無いので大人しくドアを開ける事にした。
「こんな朝から何のご用事で……?」
「うふふ、とぼけても無駄だよ? 柏原君が忘れても私は忘れてないからさ☆」
「……すみませんでした」
「私まだなんにも言ってないよ? やましい事でもしたのかな?」
顔は笑っているのに声が笑っていない。やべぇ、本気で怒ってる奴だ……! まあ、不健全な行為を正そうとしてたのにいきなり逃走されたら誰でも怒る。先の事全く考えてなかったな俺達。
「どうせサボるつもりだったんでしょ? だから様子を見に来たんだ」
「ははっ、冗談が好きだね枚方さん。規則正しい真面目な俺が学校をサボるとでも?」
「だよねー! 柏原くんに限ってそんな事はないよね!」
「そうそう! はははは……」
全部お見通しって訳か…… どんだけ俺達の考え先回りしてんだこええよ。しかし完全にサボるつもりでいたから学校に行きたくない。なんとかしてこの状況を打破しなければ。
「んー? 誰かいるのー?」
桃ヶ池が目を覚まし玄関に来た。
「え、桃ヶ池さん? な、何で柏原くんの家にいるの?」
「なんで都合の悪い時だけ出てくるかなぁ!」
ほんとタイミングが悪すぎる。また話がややこしくなるじゃないか。呪いでもかかってんのかな。
「うぅーちょっと洗面所行かせて。口の中ベトベトで上手く喋れないんだよ」
「ベトベト? 柏原くん一体何を……?」
「なんで俺がやらかした前提なんだよ!」
酷い言いがかりだ。こんな健全な男子高校生を疑うなんてどうかしている。全く、これだから風紀に厳しい奴は!
「なんで主様ごまかすの? あれだけ口の中に出しておいて酷いなぁ」
「……柏原くん?」
「……」
枚方のきつい視線に思わず俯く。すみません昨日、思いっきり不健全な男子高校生になってました。素直って怖いねほんと。
「ちょっと……昨日より酷くない? 風紀が乱れてるとかそういうレベルじゃなくて……」
もうダメだ、既成事実が発覚事をしている以上これ以上ごまかしは効かない。これはピンチ……あ、思いついた。
「あ、枚方宅配の人来たから後ろ下がって」
「え? ああ、ごめんなさい」
「じゃ」
「え!? ちょ、ちょっと柏原くん!?」
枚方が後ろに下がった瞬間を見計らってドアを締め鍵をかけた。もちろんチェーンロックも含めた頑丈なロックだ。最初からこうしとけばよかったな。
「こら! 開けなさい!」
枚方がドアを叩いてくる。
「開けなくて大丈夫?」
「あいつ皆勤賞狙ってる筈だしそのうち諦めるだろ」
「なるほどね」
今のところ皆勤だったし時間になったら学校に行かざるを得ないだろう。それまでこのうるさい音に耐えないといけないが仕方ない。とにかく今日はサボりたい、一度決めた事を覆すのは結構大変なのだから。
懸賞に応募したらリアル彼女が当選してしまった件。 早乙女らいか @kasachi-raien
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