第8話 放課後

「まあ、今日はこの辺でいいぞ。詳細は後日話す」


 結局この日決まった事は俺と桃ヶ池が新しい部活に入るという事だけだ。まだ実験段階とも言っていたしこの先が不安である。


「柏原せんせー余計な話多くて凄くダルい。次からポケットでソシャゲでもしてようかな」


「余計な話が多いのは認めるがそれでもお前の為にしてくれてんだぞ?」


 帰り道、怖い目つきをした桃ヶ池が道端にある小石を蹴飛ばしながら愚痴をこぼした。よっぽど呼び出された事が不満だったのだろう。


「それくらいわかってるよ。あーあ、大人って立場を利用して都合のいい事しか言わない。ほんとムカつく」


「都合がいいのは大人だけじゃなくて人間なら誰しもだと思うが」


「……そだね」


 これには桃ヶ池も納得したようだ。ほんと、俺達人間って都合のいい生き物だよな。例えば虐めがあれば関わらずスルーし、一転攻勢すれば味方に回る。思考自体はクズなのに俺でも納得出来てしまうってのが本当におかしい発想だ。


「……」


「桃ヶ池?」


 前を歩いていた桃ヶ池が急に止まりこちらに振り向く。落ち掛けた夕日もあってかその姿はどこか悲しげであり、まるで周りから一人取り残された子供のようだった。


「……主様はこっから家に帰るの?」


「え、あ、いや、アキバに寄って本を探そうと思ってるが……」


「そっか。ねぇ、ボクもついて行っていい?」


「別にいいが面白い事なんて多分ないぞ?」


「別に……主様がいるし」


 やけに素直な事を言う桃ヶ池は何かモヤモヤする。いや、素直なのは屋上の時でもそうだったがあの時とは違う、人に甘えるような素直さだった。珍しい、と言えば聞こえがいいが違和感を覚える。そんな複雑な感情を抱きながら俺達はアキバに向かった。


「ふーん、結構色んな物があるんだね」


「まあ、アキバは店の規模もデカいからな」


 初めて来たらしい桃ヶ池にアキバの説明をする。ここはアキバのとらのあな。商業同人関わらず様々な漫画が揃う漫画専門書店である。


「メロンブックス、だっけ。あっちには行かないんだ」


「あっちとは特典が違うんだ。とらのあなの特典が俺はほしいから今日は行かない」


「ふーん……」


「……」


 何を聞かれてもふーんで返す桃ヶ池に俺は不安に鳴ってしまう。話題的にも盛り上がりにくい点もあるが、それ以上に桃ヶ池の興味が出ないだけだ。


「なあ、だからつまんないっていったろ?」


「つまんないなんてボク一言も言ってないよ?」


「え、でも何返してもふーんで返すから……」


「それはここに来て驚いていただけ。そのせいで空返事みたいになったけど」


 意外だな。まさか桃ヶ池がアニメ系に興味を持つとは思わなかった。あ、確か設定にアニメ大好きとか書かなかったっけ。メロブもわかってたし知識には入ってたのかもしれない。


「で、主様の探し物は見つかったの?」


「ああ、見つかった。これから会計に行く所だ」


 俺が欲しかったのはごちうさの最新刊。とらのあなだとシャロの特典が貰えるんだよな。ごちうさはどのキャラも好きだが個人的にシャロが一番気に入っている。特に周りから振り回される姿は可愛らしい。


「あーそれアニメ見た。ボク、千夜ちゃん好き」


「へえ、珍しい」


 こんな事を言ったらファンに申し訳ないが千夜はメインなのにグッズからハブられたりとどうも不人気なイメージがあるんだよな。単に周りのキャラに押され気味なのが原因だろうが。


「何か裏に腹黒い人格隠してそうなのがボクみたいで共感する」


「そんな好意的な意見初めて聞いたぞ……」


 桃ヶ池らしい理由に俺は心底呆れる。てか千夜は天然なだけでお前みたいに意図的な事は一切……あれ、どうだろ。シャロ関連だと意図的な腹黒さがちらほらあったような……もういいや。


「まあ、俺買ってくるからそこら辺ぶらついていいぞ」


「ねえねえ、この本って上で売ってるの?」


「ん? お前それ……」


 桃ヶ池が指を差した物に思わず動揺する。かなりヤバい物なのに、こいつは面白いおもちゃを見つけたって顔している。それは俺も何度かお世話になってるが高校生が買うにはまだ早すぎる物だった。

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