第7話 SNS相談部

「あっ、鳴ったね」


 気付けば昼休み終了のチャイムが鳴っていた。俺に体を密着させていた桃ヶ池が離れ、入口のドアに向かって歩いていく。


「何してるの? 早く行かないと怒られちゃうよ主様」


「……あぁ、そうだな」


 一気に判明した真実に困惑している俺に対し、桃ヶ池はあっけらかんとしていた。全く、どんな思考をしているんだ。しかし、大企業へのハッキングを遊び半分でやるこいつにとっては、この程度の事は何とも無いんだろうなと俺は妙に納得してしまった。



「よーし、よく逃げずに来てくれたな柏原。先生は嬉しいぞ」


放課後、休憩室に呼び出された俺と桃ヶ池。面倒くさい気持ちでいっぱいの俺達に対し、住吉先生はニコニコとしていた。


「逃げたら翌日何されるかわかったもんじゃありませんよ……」


「はっはっはっ、よくわかってるじゃないか」


 高笑いしながら肩を強く叩いてくる住吉先生。痛いってあんた力強いんだから加減してくれよ。


「せんせー、早く本題に入って下さいよ」


「ああ、桃ヶ池すまんな。なら早速本題に入らせてもらおう」


 俺が住吉先生に絡まれてる際、一人置いてけぼりの桃ヶ池は髪をいじりながら足を上下に動かしている。さっさと終わらせて帰りたいんだろうな。もしかしたら普段真面目にしていたのは先生から呼び出されるのが単純に面倒くさかっただけなのかもしれない。


「実は部活に入ってもらいたいんだ」


「部活? この学校部活は強制じゃないはずでは?」


「それは間違っていない。ただ、お前らに入って貰いたい部活があるんだ」


 後ろのホワイトボートに振り向き、何かを書き出す住吉先生。振り向いた時、長いポニーテールが背中でふわりと揺れたのが印象的だった。


「お前らに入って貰いたい部活はこれだ」


 再びこちらに振り向いた住吉先生。そしてホワイトボートにかかれた部活名は少なくともこの学校では聞いた事の無い部活だった。


「SNS相談部……?」


「そうだ。直接相談するだけでなく、SNSを利用して生徒の相談しやすさを高める事を目的としている部活だ。まだ実験段階なんだがな」


 なるほど、先生に直接相談するのは人によっては少しハードルが高いかもしれない。事実、困り事を先生に相談するのは正しい判断なのだが直接話すという事や人に聞かれる不安等、そもそも相談する事を避けてしまう人がいる。  

 しかし、SNSを利用すれば小さな事でも気軽に相談でき、場合によっては短時間で問題解決できるかもしれない。ネット以外で話したくない俺にとってもこの発想は素晴らしいと思った。


「でも、その部活とボク達が入る事に何の関係があるの?」


「よく聞いてくれた。実は相談の際、先生だけで無く生徒にも協力してもらう事で気楽に相談しやすくなるかと思ってな」


「ふーん……」


 桃ヶ池のタメ口に反応せず冷静に返していく住吉先生。生徒に相談させるたいうのは一理あるな。大人より年齢の近い生徒に相談したいという人もいる。相談の幅を広げる点では有効だろう。


「だけど何でボク達? 相談事なら生徒会に任せればいいじゃん」


「生徒会にも話は進めている。しかし、お前らに入って貰いたい理由は別にあってな。それは……」


「不真面目になった桃ヶ池の印象をよくしたい。ですよね先生」


「……その通りだ柏原」


 大体そんな所だろうと思った。 真面目な生徒として見ていた先生方からすれば桃ヶ池の変化はよく思われておらず元の姿に戻そうとする。当然の事だろう。


「中身は以前と変わらず真面目だしそこまで矯正しなくてもいいだろうと主張はしている。だがそれだけでは先生方を説得できないんだ……」


 苦虫を噛んだような表情をする住吉先生。この詩島高校は校則が緩く、生徒の自由さが特徴である。なのに桃ヶ池一人だけ真面目にさせ個性を潰そうとする先生方の動きが、住吉先生に取っては不本意なのだろう。俺自身も治して貰いたい部分があるとはいえ桃ヶ池をクソ真面目にされるのはなんか気に食わない。


「つまり、ボクを相談部に入れる事で生徒に奉仕活動してますよーって証明がさせたいわけか。なるほどなるほど」


「少しは真面目に聞けよ……」


 真剣に桃ヶ池の事に付いて話しているのに当の本人はそばにあったクッションをムギュムギュとしていた。小柄な体系とクッションが妙にあっているのだが自分の事なのに感心が無さ過ぎるだろ、と気が抜けてしまう。


「で? 桃ヶ池の名誉挽回したいのはわかりますが、何故俺も入る事になってるんですか?」


「その名誉挽回しなければいけなくなった原因はお前にもあるだろ。それにお前が入れば桃ヶ池も部活に入りたくなるだろう?」


 威圧的な表情で迫られる。要は責任とってなんとしろ柏原、という事だ。ふざけるな、誰がやりたくて他人の相談なんて聞かなくちゃいけない。


「ボク、主様がやるなら入るよー」


「ほーら、桃ヶ池がやるって言ってるんだ。お前もやるよなぁ?」


 完全に逃げ場を無くした。こいつら最初から俺をハメるべく計画してたんじゃないか? 桃ヶ池はこの状況を楽しんでやがるし、住吉先生に至っては完全に入る前提で進めている。どちらにせよ俺がSNS相談部に入る事は確定なのだろう。はぁ、どうしてこうなったのかなぁ……

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