第6話 桃ヶ池桃華の本性
「んしょ」
桃ヶ池が素早く接近したかと思えば、逃げられないよう腕と足でがっちりホールドされてしまった。端から見ればイチャイチャしてるカップルの用に見えるだろう。
「えっ、ちょ、近すぎるって」
「ふふ、主様ったら童貞心丸出しなんだから♡」
密着している為、嫌でも視界に桃ヶ池が写り込む。そんな中、桃ヶ池に胸やふとももを俺に押し付けられ、俺は何かイケない事をしている気持ちになり緊張してしまう。
「主様、まずは何から聞きたい?」
「そ、そうだな……まず、何から聞けばいい?」
「何でも答えるよ? だから落ち着いて……ね?」
緊張した表情の俺を見て桃ヶ池は舌なめずりをしながらニタニタと笑っている。それはまるで、獲物を見つけた捕食者のようだった。
「そうか。なら最初に聞くぞ。一等の彼女は何故お前なんだ?」
「ああ、その事ね」
興味がなさそうに軽く返してきた。俺にとっては重要な事なのに桃ヶ池にとってはそうでもないらしい。
「実はね、主様は懸賞に当たっていないんだよ」
「え……?」
懸賞に当たってすらいない。その事実は俺の頭に強い衝撃を与えるには十分すぎた。
「なら、何故お前がここにいる?」
「有り得ないかもしれないけどね、ちょっとスマブレカンパニーのサーバーをハッキングしたんだよ」
「ハッキングだと……?」
俺は唖然とした。ハッキングなんて高校生がするような事ではない。ましてや大企業のサーバーなんて下手しなくても犯罪その物である。
「そしたら懸賞で彼女が貰えるという馬鹿らしい企画を見つけて面白半分にデータを漁ってみたんだ。そして主様のデータを発見した」
バレたら逮捕どころじゃ済まない話を桃ヶ池は平然とした表情で語っていく。
「設定を見たときは痛々しすぎておかしかったよ。あんな妄想、中学生でもしないってね」
「痛々しくて悪かったな」
あざ笑っていた桃ヶ池に俺はムッとした。確かに痛々しい設定だし今見ても恥ずかしい部分が多々ある。しかし、あの頃は虐めや裏切りのせいで現実に絶望していた。そんな俺が妄想の中だけは希望を持ちたいと思い、あの設定が誕生したのだ。あの設定は黒歴史でもあるが俺にとって愛着のある物でもあり、未だにPCのデータに保存していた。
「その設定を見てね、面白そうだなって思ったんだ。この設定通り動いたら最高だろうなって」
「面白半分でやっていたのか」
「そうだよ? ボクは天才すぎて日常に退屈さえ抱いていた。そんなボクに、この設定には未知の可能性を示してくれたんだ!」
段々と声が大きくなり喜々とした表情になる桃ヶ池。よほど未知の体験だったのか表情から狂気がにじみ出ている。はっきり言って俺に桃ヶ池の気持ちはわからなかった。
「天才ゆえの悩み……か」
「そういう事。だからこれからもボクの事楽しませてよ」
「嫌と言ったら?」
「言っておくけど主様のデータを世の中にぶちまける事なんて簡単だよ?」
「だろうな……」
桃ヶ池に睨みつけられる。それは、まるで大事なおもちゃを取られる子供の用に必死だった。まあハッキングされてる時点で逃げ場は無い、と俺は考えるのを諦めた。
「で? お前はこれからどうするんだ?」
「そうだね。まあ彼氏彼女の関係で行きたいと思っているよ。もちろん、設定通りにね……」
「それでいいなら、俺もいいよ。飽きるまでとことん付き合ってやる」
「なかなか飽きないと思うよー? ボク、こんな面白い物手放したくないし」
俺の事を物と言った桃ヶ池は自身の小柄な体格もあってか愛らしさを感じた。そして、遂に人間扱いされなくなった事実に俺は心底複雑だった。
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