第5話 昼食!解き放たれる本心!

桃ヶ池が何かしてくるのではないかと不安だったが、特に大きな事はおきず、昼休みに入った。強いていうなら、クラスメイトの前で俺の事を主様と呼ぶくらいだろうか。おかげで俺はクラスメイトから、変態調教師なる異名を付けられ散々な思いをした。


「主様、昼ご飯は屋上で食べない?」


 机に弁当を出した俺に桃ヶ池が話し掛けて来た。


「屋上? あそこ使用禁止じゃなかったか? 後、主様って呼ぶな」


「実は入れるんだよ~。ボクが屋上の鍵をぶっ壊したからね♪」


 さらっととんでもない事を暴露したのにも関わらず、桃ヶ池は不敵な笑みを浮かべながら俺の方をじっと見つめている。冷ややかで、何の躊躇いも無い桃ヶ池の瞳。そこから俺は桃ヶ池に眠る闇の一部を感じた。


「ねぇねぇ、早く行かないと昼休み終わっちゃうよ?」


 桃ヶ池に右腕を絡まれ、無理やり引っ張られる。胸や腕の柔らかさや女の子特有の甘い香りがダイレクトに伝わり、俺は気が気でしょうがなかった。


「うぉ、バランス崩れるって。わかった、一緒に行くからちょっと落ち着いてくれ」


「やったー、主様好きー」


 桃ヶ池の軽すぎる好意は脱力感を覚える。それは、柔らかさや匂いに興奮していた俺に、十分な余裕を持たせた。桃ヶ池は何を考えてるのだろうか。さっき感じた闇といい不自然すぎる。ダメだ……まったくわかんねぇ。モヤモヤが俺の頭の中をよぎる中、俺達は屋上へと向かった。



「本当に壊れてる……」


 屋上への扉には南京錠が掛けられている。しかし、掛け金の部分が鍵無しでも降りるようになっており、南京錠の役割を全く果たしていなかった。


「こんな事しても気付かない教師ってほんとバカだよねー、にゃはは」


 猫のような笑い声を出しながら桃ヶ池が南京錠を外し屋上への扉を開ける。何の躊躇いも無く開けるが、何故こいつは屋上の鍵を壊したのだろう。桃ヶ池に会ってから疑念ばかり増えていく一方だった。


「結構ボロボロだな」


「まーあんまり使われてなかったみたいだしねー」


 屋上の状態はかなり悪かった。地面のコンクリートはひびが入って欠けてるし、鉄格子も錆びついてる上、一部取れて無くなっている。屋上が閉鎖されていた理由も、大体納得できた。


「さーさー、早くお弁当食べよ。主様こっちこっち」


「わかったから慌てるなって」


 広くスペースが取れる屋上の中心部に座り込む。今日は天気も気温もちょうどいい。外で弁当を食べるならまさにうってつけだろう。


「主様の為にお弁当作ったんだー。良かったら食べてよ」


「これ桃ヶ池の手作りか? よく出来てるな」


 いつも通りパンを食べようかと思っていたのだが、今日は桃ヶ池が弁当を二つ持ってきていた。中身はハンバーグと野菜を中心としたおかず。ヘルシーだが健康的なボリューミーある弁当だ。


「……美味い。うん、普通に美味いなこれ」


「えへへ、喜んで貰えて良かったー」


 桃ヶ池の料理は美味しかった。ハンバーグはレトルトではなく手ごねだし、野菜も味がしっかりついてるから嫌にならない。家庭料理としてはかなり上位のレベルじゃないかこれ。


「はー美味かったよ。ありがとうな桃ヶ池」


「どういたしまして」


 俺は夢中で食べており気付けば完食していた。


「まさか桃ヶ池がここまで料理が出来るとはなぁ。ひょっとしたら俺より料理、上手じゃないのか?」


「主様も料理作るの?」


「たまーにな。親が忙しすぎてご飯用意出来なかった時とか俺が作るんだよ」


 と、言ってもレトルトの場合が多いから本当にたまになんだがな。それに作れるレパートリー少ないし。


「へー主様の料理ボクも食べてみたいな」


「人に食べさせるような物じゃないって」


「いえ、本当に食べてみたい。というか主様の事もっと知りたい」


 食べかけの弁当に蓋をし、桃ヶ池がこちらに迫ってきた。顔は笑っているのに目だけが笑っていない。漫画ならハイライトが消えていそうなこの目からは、桃ヶ池の深い闇が感じられる。桃ヶ池の本質……いや、桃ヶ池の本心が……


「ねぇ、主様。ボクに何か聞きだい事あるんでしょ?」


「あぁ、色々とな」


「なら、教えてあげるよ。恋人は本音で語り合う物だもんね。たっぷり教えてあ・げ・る♡」


 桃ヶ池の手が俺の右頬に触れ、撫でるように動かす。ざわざわとした感覚が俺を襲うが苦ではない。逃げちゃダメだ。ここで俺が抱えてる疑念を晴らさなければ、前には進めない。相変わらずの不敵な笑みを浮かべている桃ヶ池を見つめながら、俺はそう決心した。

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