第13話 炒飯
「ついたぞ、てか二回目か」
「そうだねー、まああの時はボクの事わからなかったみたいだけど」
「わかるわけねえだろあんなの」
8階建てマンションの503号室、そこが俺の家だ。あの時は住所を抜き取ったのかいきなり桃ヶ池が家の前にいてびっくりした。今となっては懐かしい思い出である。
「へーこんな風になってるのかー」
「面白みとかないだろ? 自分でもそう思う」
「いやーでもベッドの下とかに面白みが隠れてたり……」
「やめて、超やめて」
俺の部屋に入るやいなや物色しようとする桃ヶ池を全力で止める。別にベッドの下に何かあるわけではないがタンスとか本棚とかに色々とアレな物がある。当然、未成年でも買える品物ですよ!
「お、だんごクッション。ダイブしちゃお」
「お前クッション好きだなあ」
「んー? まあモコモコしてる感触が好きというか……あービーズが気持ちいい……」
だんごクッションにギューッとしている桃ヶ池。クッション自体置物と化していたが次から桃ヶ池の匂いがついて余計に触りづらくなったな。……一人になった時嗅ごうかな。いや、変態か俺。
「さて、泊まるなら晩飯どうする?」
「んー……あ、そうだ。主様の手料理が食べたい」
「えー……面倒くさ」
インスタントで済ませようとしてたのに作るのは正直ダルい。食材切るのとかネギくらいしか嫌だ。
「明日の朝食はボクが作るからさー。若妻の朝食なんて貴重だよ?」
「彼女からすっ飛ばしすぎだろ」
会って数日で彼女から若妻にランクアップとかギャルゲーかよ。俺は結婚イベント挟まないとそういうの認めないからな。
「はぁ、わかったよ。明日お前作れよ?」
「やったー、主様超大好き」
「そんな軽い大好きで喜ぶと思ってんのか」
このまま話しててもどうせ桃ヶ池がごね続けるだけなので、覚悟を決めて晩飯を作る事にした。しかし超を付けると何故こうも安っぽくなるのだろうか。スーパーとかハイパーとか安直すぎてもう飽きたぞ。
「さて、冷蔵庫の中は……」
冷蔵庫の中には割と食材が入っていた。場合によっては朝飯分も買いに行かなければならなかったが、これくらいあれば大丈夫だろう。さーて、何作るかな。
「炒飯でいいか? 余り凝ったものは作れん」
「んー、それでいいよー。中華とか久々だなぁ」
「俺も久々に作るからあんま期待すんなよー」
「10点満点で評価するねー」
「点数制は心に響くからなしで……」
なんで家庭料理を素人に評価されなくちゃならんのだ。そういう気軽なやつ程後々、心に響いてくるんだぞ。
「お、アマプラ入ってるんだ。何か見てもいいー?」
「別にいいぞ。何か面白そうな奴あったのか?」
「えっと、この仮面ライダーアマゾンズってやつが……」
「それ食事前に見る番組じゃねえ、やめろやめろ」
初見じゃ分からないとはいえアマゾンズを見ようとする桃ヶ池を静止する。確かそれ人肉ハンバーグとか出てくるやつだぞ。食事前にそんなもん見せられたら食欲なくすわ。
「……ウォーターサーバーおかない?」
「お前アマゾンズ見てたろ」
しかもそれS2の場面じゃん。がっつりアマプラ登録して見てんじゃん。S2は結構エグい描写が多いせいか三話までしか見れていない。でも、面白いんだよなぁアマゾンズ……
「おーいい匂いしてきたー」
「もうすぐで出来るから少し待っててくれ」
「ねぇねぇ使われている肉本当に……」
「スーパーの豚肉だ、変な含み持たせんな」
時々アマゾンズ関連のネタを振ってくる桃ヶ池にSAN値を削られる。これは産地直送じゃなくてちゃんとスーパーで買ってきた豚肉だ……多分。だから害虫駆除の業者さんとかこないでお願い。
「ほら、出来たぞ」
「おー、美味しそう」
「久々だから果たしてどうかな……」
炒飯の匂いに釣られて桃ヶ池もテーブルに寄ってきた。所々、焦げてたりはするけど概ね上手く出来ていると思う。まあ、少し冒険してキムチとか入れたから不安ではある。
「それじゃいただきまーす」
「ん、上手い。なかなか出来てる」
パラパラ感が少し足りないが家庭料理としては十分だろう。キムチも程よい辛さを出してるし上手い事出来てよかった。
「自画自賛とかきもー、まあ美味しいけど」
「お前は一言余計だ、素直にいいすぎ」
しかも自画自賛するのはお前のほうだろうが。その内フフーンとかボクってばカワイイですねぇ! とか某アイドルみたいな事言い出しそうでヒヤヒヤしてんだぞ。
「じゃあ点数……」
「まだ続いてたのかそれ」
だから点数制はマジで傷付くから止めてくれ。俺は気楽に作ったんだからこんな事で心に傷を負いたくない。ストレスの無い生活を心がけてんだぞ俺は。桃ヶ池の毒をツッコミで返す晩飯は終わりを迎えようとしていた。
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